夏目漱石の作品を読み始める前に、「読む順番はどうしよう?」と悩む方も多いでしょう。
初めて読む作者は、どれから読むか悩ましい…私は三島由紀夫で失敗しました。
結論、純文学初心者は「こころ」から、経験者は「三四郎」を含めた前期三部作から読むのがおすすめです。
読む順番は意外と大切。特に出会い方を間違えると、その作者の本を一生読まない可能性すらあるので、注意が必要です。
そこで今回は、夏目漱石作品の読む順番について初心者向けに解説します。
夏目漱石の代表作や作品一覧についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
夏目漱石作品の読む順番は?
夏目漱石作品の読む順番について、以下の観点から解説します。
読む順番に正解はないので、自身に合うパターンを見つけましょう。
純文学初心者向け|代表作の1つ「こころ」から
純文学を読んだことのない方は、代表作の1つ「こころ」から読むのがおすすめ。
「こころ」を1冊目におすすめする理由は、以下の通りです。
- 高校の現代文で触れたことがある
- 場面展開が明確で読みやすい
- 面白さを実感しやすい
多くの方が高校の現代文で「こころ」の一部を読んだ経験があることから、抵抗感が薄く読みやすいといえます。
純文学の面白さを体感するには「最後まで読む」ことが大切なので、初めのうちは親しみやすい作品から取り組みましょう。
また、夏目漱石の作風は日記に近いところがあり、場面展開がありそうでない作品が多いため、作品を間違えると「つまんないじゃん」で終わる可能性も。
「こころ」は、「先生との出会い」「先生からの手紙」など場面が明確で飽きずに読めます。
さらに、登場人物の最期のシーンなどがしっかり描かれている珍しい作品で、比較的面白さを実感しやすいのも特徴です。
「こころ」の面白さを実感すると、他の漱石作品で「つまらない」と感じても面白くなると信じて最後まで読めるようになります。
つまり、「こころ」を成功体験にする訳です。
発表順に読むと「我輩は猫である」から読むことになりますが、誰もが知っている「我輩は猫である。名前はまだ無い。」は文庫本で約550ページの1行目。その先が非常に長く読破するのに時間を要するため、個人的に初心者にはおすすめしません。
「こころ」の後は、「三四郎」から始まる前期三部作に挑戦すると良いでしょう。理由については、次の章で解説します。
▼「こころ」のあらすじや初心者におすすめの純文学作品についてまとめた記事は、こちら。
純文学経験者向け|強いて言えば前期三部作から
純文学経験者であれば、「こころ」から始めても良いですが、強いて言えば「三四郎」を含む前期三部作から読むのがおすすめ。
前期三部作とは「三四郎」「それから」「門」の3つのことを指します。
経験者に前期三部作をおすすめする理由は、以下の通りです。
- 3作品がif設定で繋がっていて全て読む必要がある
- 面白くなるのに時間がかかる作品がある
- 純文学特有の救いのない展開が多い
前期三部作はどこから読んでも面白いと思いますが、if設定で話が繋がっているので3冊分読む必要があり、読書や純文学に慣れている方のほうが取り組みやすいといえます。
「三四郎」の恋がもし将来的に思わぬ形で叶ったら?が「それから」、「それから」での願いがもし叶っていたら?が「門」です(ただし、登場人物は異なる)。
また、「それから」は最たるものですが、場面が大きな展開を迎えるのが後半なので、面白くなるのに時間が必要で、初心者だと諦めてしまう可能性も。
「それから」は意外性があって途中から一気読みできるのですが、助走が如何せん長い。
特に「それから」と「門」については、純文学特有の救いのない展開があり、ある程度読んでいると面白さを実感しやすいでしょう。
前期三部作を読み終えたら、最後に読みたいタイトルを決めて、その他の興味ある作品を読んだり、ページ数で決めたりするのも良いでしょう。詳しくは次の章を参考にしてください。
ページ数で決めたい・発表順に読みたい方向け|作品一覧
ページ数で決めたい・発表順に読みたい方向けに、作品一覧を下表にまとめました。
ページ数は個人的に所有している新潮文庫を参考にしているので、目安として指標にしてください。
作品名 | 発表年 | ページ数 |
---|---|---|
吾輩は猫である | 1905〜1906年 | 545ページ |
倫敦塔・幻影の盾 | 1905年 | 258ページ |
坊っちやん | 1906年 | 179ページ |
草枕 | 1906年 | 178ページ |
二百十日・野分 | 1906・1907年 | 293ページ |
虞美人草 | 1907年 | 455ページ |
坑夫 | 1908年 | 268ページ |
文鳥・夢十夜 | 1908年 | 309ページ |
三四郎 | 1908年 | 337ページ |
それから | 1909年 | 344ページ |
門 | 1910年 | 293ページ |
彼岸過迄 | 1912年 | 366ページ |
行人 | 1912年 | 465ページ |
こころ | 1914年 | 327ページ |
硝子戸の中 | 1915年 | 121ページ |
道草 | 1915年 | 334ページ |
明暗 | 1916年 | 651ページ |
作品順で読むのであれば、「我輩は猫である」から始まり、「倫敦塔・幻影の盾」「坊っちゃん」と続きます。
また、1冊のページ数で文量の少ない作品を選ぶと、「硝子戸の中」「草枕」「坊っちゃん」となりますが、1冊に複数の作品が掲載されている場合があり、電子書籍などで作品単体を読める場合にはこの限りではありません。
さらに、「硝子戸の中」は随筆であり、もちろん面白いですが物語ではないため注意しましょう。
▼純文学についてまとめたその他の記事は、こちら。
夏目漱石、上から読むか?下から読むか?私の場合
私が夏目漱石作品を読んだ順番は、以下の通りでした。
- こころ
- 三四郎
- それから
- 門
- 草枕
- 坑夫
- 道草
- 行人
- 二百十日・野分
- 虞美人草
- 倫敦塔・幻影の盾
- 文鳥・夢十夜
- 彼岸過迄
- 坊っちゃん
- 硝子戸の中
- 我輩は猫である
- 明暗
私の読書は「教科書に載ってたアレ、何だったっけ?」から出発しているため、「こころ」から始まります。
最後は「明暗」にしようと思っていたものの、特に発表順で読むことに興味がなかったことから、毎回本屋であらすじを読んでから決めていました。
また、漱石の執筆期間は10年と短く(川端康成だと50年以上ある)、比較的作風に変化がないためどこから読んでもあまり変わりがないといえます。
「こころ」が面白いと思ったので、結局最後の「明暗」まで読めたようなものですが、夏目漱石の作品との出会いが良かったのはたまたまでした。
読む順番で個人的に失敗したのは、三島由紀夫です。
何故か真面目に発表順に読もうと思って「仮面の告白」を読んだら、持て余してしまったために「もう、三島由紀夫は読まないかな…」という気持ちに。
数年後、知り合い(純文学のプロ)から「宴のあと」を教えてもらってやっと三島文学の良さが分かるという。
▼バッドエンドの純文学作品をまとめた記事は、こちら。
夏目漱石の代表作
夏目漱石の作品について、「代表作」と「前期三部作・後期三部作」を紹介します。
有名作品から読みたい方は、参考にしてください。
代表作
有名作品が多い夏目漱石ですが、代表作は以下の通りです。
- 吾輩は猫である
- 草枕
- 坊っちゃん
- こころ
「我輩は猫である」はもちろん、「草枕」も冒頭部分の認知度が非常に高く、「智に働けば角が立つ。」がの一節は一度は耳にしたことがあるでしょう。
「坊っちゃん」や「こころ」は教科書に掲載されているケースが多いため、やはり主要な作品の1つです。
また、新潮文庫の累計発行部部数で判断すると、以下の2タイトルが代表作といえます。
- こころ:701万部
- 坊っちゃん:420万部
いずれも2014年時のデータなので、さらに部数が伸びていることでしょう。
当時3,000タイトル以上刊行されていた新潮文庫で累計発行部数が1番多い作品が「こころ」であり、冊数は186刷にも上りました。
参考元:デイリー新潮|夏目漱石『こころ』700万部突破!連載開始から100年で
奈良県立図書館情報館|「教科書に載っている本~中学校の国語の教科書~」図書リスト
前期三部作と後期三部作
夏目漱石の前期三部作と後期三部作は、以下の通りです。
種類 | 作品名 |
---|---|
前期三部作 | 三四郎(1908年) それから(1909年) 門(1910年) |
後期三部作 | 彼岸過迄(1912年) 行人(1912年) こころ(1914年) |
「純文学経験者向け|強いて言えば前期三部作」の章で紹介した通りに、前期三部作は物語がif設定の展開となっており、繋がりを顕著に感じます。
後期三部作は「エゴイズム」と「苦悩」がテーマになっているとされていますが、作品間での物語の繋がりは感じられません。
ただし、「行人」では主人公が友人Hからの手紙を読む箇所があり、「こころ」のスタイルを確立するきっかけになったと考えられます。
前期・後期と分かれているものの年数的には連続しており、作風に大きな変化がないため、6作品続けて読んでもストレスはないでしょう。
夏目漱石の遺作
夏目漱石の遺作は、1916年に発表された「明暗」で未完に終わっています。
「明暗」のあらすじは、以下の通りです。
未完で終わっていますが、他の作品でも結末がありそうでない展開が多いので、未完だからといってあまり気になりませんでした。
「明暗」は私心を捨てて自然に身を委ねる「則天去私」の境地を描くことを試みた作品とも言われていますが、一読者が読む味わいはさまざま。
私は、夏目漱石が描き続けてきた「人の孤独」や「他者と分かり合えない」という点が極まっていて感動しました。
例えば、明暗には以下のような件があります。
実を云うと、僕には細君がないばかりじゃないんです。何にもないんです。親も友達もないんです。つまり、世の中がないんですね。もっと広く云えば人間がないんだとも云われるでしょうが
夏目漱石「明暗」
上記は小林と主人公の妻・お延との会話の一節です。
私は最後に選んだ夏目漱石作品は「明暗」でしたが、「孤独もここまで来たのか(感嘆)」と思わず良い意味でため息をついてしまいました。
「明暗」はページ数が多いものの、比較的サクサク読める作品です。
\\「夏目漱石の遺作を読みたい」「最後の作品から読んでみたい」という方は、こちらをチェック。//
まとめ
夏目漱石作品は、純文学初心者であれば「こころ」から、経験者であれば「三四郎」を含む前期三部作から読むのがおすすめです。
また、前期三部作は「三四郎」「それから」「門」で、後期三部作は「彼岸過迄」「行人」「こころ」です。
発表順に読みたい場合には「我輩は猫である」から取り組みましょう。
本記事を参考にしながら、読書ライフを満喫してください!
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