「文庫本のフォントはどの種類が使われている?」と疑問を持つ方も多いでしょう。
読みやすさ云々もあるけれど、フォントは文庫本の雰囲気を決定づける大切な存在。
結論、新潮文庫では秀英細明朝・リュウミンなど、文庫レーベルによって採用されているフォントには違いがあります。
文庫に使われているフォントについて理解を深めておけば、選書する際にも役立つこと間違いなし。
そこで今回は、文庫本で利用されているフォントについて解説します。
文庫本は何万文字くらいあるのがも紹介するので、参考にしてください。
文庫本のフォントはどの種類が使われている?
文庫本で使用されてるフォントの種類は、以下の通りです。
明朝体とは可読性に優れた書体で、長文を読む際にも疲れづらい特徴を持っています。
一言に「明朝体」と言っても、各社が開発・販売を行っており、その種類やデザインされた背景はさまざまです。
例えば、新潮文庫が使用している「リュウミン」は森川龍文堂明朝体をもとに開発されており、モリサワが取り扱っています。
各明朝体で「はね」「はらい」などに違いがあるため文字の表情に違いが出ます。
ちなみに、フォントとは本来は統一された文字のセットを指しますが、現在では書体データを意味する傾向にあります。
▼文庫レーベルについてまとめた記事は、こちら。
新潮文庫のフォントは秀英細明朝?リュウミン?
結論から言うと、新潮文庫のフォントは「秀英細明朝」と「リュウミン」の両方が利用されています。
印刷雑誌2019(Vol.102)の「文字もじMOJIの世界」において、新潮社の企画編集部の方が解説しており、以下の通りです。
小社の場合、文庫本を含め本文書体に多用されるのは、リュウミンが過半を占め、次いで秀英明朝体。たぶんこの二つで全体の8割以上になるのではないだろうか。(中略)例えばフォント名を明記せずに「9.5ptMM」と指定して入稿した場合、大日本印刷では自動的に秀英体で組まれ、他の印刷会社ではリュウミンで組まれることがほとんどだ。
引用元:印刷雑誌2019(Vol.102)|文字もじMOJIの世界
「秀英明朝」は大日本印刷株式会社が前身である秀英舎の書体であり、個人的に所有している新潮文庫でも大日本印刷株式会社で印刷されたものは秀英明朝でした。
同じ新潮文庫ではあるものの、さまざまな印刷会社で印刷が行われており、以下の通りです。
個人的にはカバー印刷のクレジット見かける「錦明印刷」の印象が強いものの、こんなに多くの印刷会社が関わっていたのかと驚きました。
「文庫本が好き!」という方は、印刷所やフォントの違いに着目してみると、さらに読書ライフが充実するでしょう。
文庫本の雰囲気や読みやすさはフォントで決まるか?
フォントは文庫本の雰囲気や読みやすさに影響を与えるものの、大きなポイントとなるのは「組版(くみはん)」です。
組版とは
文字・図版・写真などを配置する作業することで、書体をはじめとして文字サイズ・行間などを決める工程
つまり、1行分の文字数や間隔・余白が決まり、文庫本の印象が組版によって左右されると言っても過言ではありません。
もちろん文庫レーベルによっても組版は異なるので、漂う雰囲気にも違いがあります。
文庫本の世界をもっと深めたい場合には、以下の雑誌がおすすめです。
毎回面白い特集が組まれていたので個人的には大好きな雑誌でしたが、残念ながら現在は休刊しています。
2014年夏号では文庫を特集しており、正木香子さんの「目においしい書体味くらべ」などを収録しています。
通販サイトで中古本などを見かけた際には、ぜひ検討してみてください。
※中古のみの取り扱い
▼文庫本についてまとめた記事は、こちら。
参考元:新潮社|あなたは今、どんな書体で読んでいますか?/鳥海修【前編】
印刷雑誌2019(Vol.102)|文字もじMOJIの世界
考える人|2014年夏号
文庫本の字が小さい?フォントサイズはどれくらい?
文庫本の文字のフォントは9pt(ポイント)前後で、9〜10ptが一般的な他の出版物と比較すると「同等」もしくは「やや小さめ」です。
「文庫本は字が小さくて読みづらい」というのは正確に言うと、「コンパクトなサイズの本に字が詰まっているので読みづらい」ことになるでしょう。
ただし、例えば高校の教科書で採用される文字の大きさは10.5~14ptなので、出版物によっては文庫本の文字を小さいと感じる場合もあります。
ちなみに、文庫本のフォントサイズは年々大きくなっており、新潮文庫のサイズの変遷は以下の通りです。
1914年と2002年のフォントサイズを比較すると、1.75ptもサイズがアップしています。
サイズの小さな文庫本において1pt以上も文字が大きくなっている差は明らかで、格段に読みやすくなっているといえるでしょう。
▼そもそも文庫本とは何かをまとめた記事は、こちら。
参考元:ほぼ日刊イトイ新聞|新潮文庫のささやかな秘密。
神谷書房|出版物やパンフレット等の文字の大きさは通常13級 (9ポ)
文庫本は何万文字くらいある?
文庫レーベルによっても異なりますが、文庫本1ページあたり500〜800字とした場合の文字数は以下の通りです。
ページ数 | 文字数 |
---|---|
150ページ | 75,000〜120,000字 |
200ページ | 100,000〜160,000字 |
250ページ | 125,000〜200,000字 |
300ページ | 150,000〜240,000字 |
実際に、文庫本で文字数を計算してみましょう。
新潮文庫の夏目漱石「こころ」は1ページあたり38文字×16行で、本文は320ページです(注釈などは除く)。
つまり、38文字×16行×320ページ=194,560文字となります。ただし、改行などを考慮していないので、おおよその文字数となることを認識しておきましょう。
まとめ
文庫本で使用しているフォントを、おさらいしましょう。
- 新潮文庫:秀英細明朝・リュウミン
- 岩波文庫:精興社明朝体
- 集英社文庫:石井細明朝ニュースタイル
- ちくま文庫:本蘭明朝
- 角川文庫:岩田明朝体
各社明朝体を利用しているもののそれぞれ種類が異なり、「はね」「はらい」などに違いがあるため文字の表情に差異があります。
文庫本の雰囲気や読みやすさを決めるのは、フォントという要素もありますが、1行分の文字数や間隔を決める組版が大きなポイントです。
今回の記事を、読書ライフを楽しむ参考にしてください。
コメント