「ドストエフスキーの白痴を読んでみたいけど、どんな作品か分からくて手が出せない」という方もいるでしょう。
いやー、面白い!面白いんですが…!
1つの作品を読むのには時間がかかるため、面白いかどうかも含めてある程度知っておきたいというのが人間の真理です。
そこで今回は、ドストエフスキー白痴の概要・あらすじ・名言を紹介します。
ドストエフスキー作品の読む順番についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
ドストエフスキー白痴のあらすじ
ドストエフスキー白痴について、以下を紹介します。
「まず、どういう作品か知りたい」という方は、参考にしてください。
白痴の概要
「白痴」は掲載フョードル・ドストエフスキーの長編小説の1つで、後期5大長編作品に数えられます。
1868年に雑誌に掲載されており、「罪と罰」「賭博者」の次に発表された作品。
ちなみに、白痴の意味は以下の通りです。
① 知能程度がきわめて低い者。しれ者。たわけ。
引用元:コトバンク|白痴・白癡(はくち)とは? 意味や使い方
② 精神遅滞のうち最も重度(知能指数二〇以下)のものをかつて区分して呼んだ語。
日本語訳では、以下の6社から出版されています(※それぞれの公式ページへリンクしています)。
どの出版社で読むかは好みの問題ですが、今回は新潮社の木村浩訳を読みました。
出版社 | 新潮社 |
題名/著者 | 白痴/フョードル・ドストエフスキー |
訳 | 木村浩 |
ページ数 | 上巻:731ページ 下巻:560ページ |
お気づきかと思いますが、上下巻のデザインが異なります。
中古を別々の業者から通販で購入したため、事前に表紙デザインが確認できずに揃えられなかったという痛恨のミス。
これぞ、中古購入あるある!
白痴のあらすじ
物語はムイシュキン公爵が、ロゴージンとレーべジェフに列車で出会うところから始まります。
ムイシュキン公爵は癲癇(てんかん)持ちで、スイスで療養した帰りでした。
ロゴージンが狙っているという見目麗しいナスターシャ・フィリポヴナについて耳します。
それ以降の場面展開は、以下の通りです。
- 公爵にとって親戚にあたるエパンチン将軍夫人を訪ねて、アレクサンドラ・アデライーダ・アグラーヤの3姉妹に気に入られる
- 公爵は将軍の秘書ガウリーラが金のためにナスターシャと結婚しようとしていることを知り、結婚を中止にさせるべく夜会へ行くことを決心する
- ナスターシャは夜会にて公爵とガウリーラの求婚をしりぞけて、ロゴージンと一緒に去ってしまう。が、ナスターシャはその後ロゴージンのもとから姿を消す
- 公爵はロゴージンのもとを訪ねる。あと少しのところでロゴージンに襲われるところだったが、癲癇(てんかん)の発作により逃れる
- ナスターシャやロゴージンの問題がありつつも、その他の遺産相続問題やガウリーラの父親問題などが展開。公爵はアグラーヤと距離を縮めて結婚することを決意する
- エパンチン家で公爵を披露する夜会が開かれるが、公爵が客を巻き込んで討論を始めてしまい夜会を台無しにしてしまう
- そして、公爵・アグラーヤ・ナスターシャ・ロゴージンの4人で会うことになるが…
結末については次の章にて解説するので、「ネタバレNG!」という方は、飛ばして読んでください。
白痴の結末【ネタバレあり】
白痴の結末は、以下の通りです(クリック・タップで広げてください)。
- ナスターシャとアグラーヤが口論となり、公爵はアグラーヤの味方をしきれず、アグラーヤはその場を去ってしまう
- 公爵はナスターシャと結婚することになるが、結婚式当日にナスターシャはまたもやロゴージンと逃亡する
- 公爵はロゴージンの家を訪ねると、ロゴージンの手によって息の根を止められたナスターシャを目にする。公爵とロゴージンはそのまま部屋で過ごす
- 結末:公爵は白痴の状態に戻ってスイスへ療養、ロゴージンはシベリア流刑、アグラーヤは亡命伯爵と不幸せな結婚を果たす
特に公爵・アグラーヤ・ナスターシャ・ロゴージンの4人で会うパートから、「ここで何も起こらないなんてことないじゃない!」と一気に読了しました。
ナスターシャの「あの娘をとるの?あの娘をとるの?」のセリフには、ゾクゾクが止まりません。
白痴はドストエフスキー作品の中で重大な展開を迎えるまでに時間のかかる作品ですが、描写が丁寧なだけに結末は「そりゃあ、そうなるよね」と納得感の強く持てる作品でした。
ドストエフスキー白痴のレビュー・おすすめ度
面白さ | ★ ★ ★ ★ ☆ |
読みやすさ | ★ ★ ☆ ☆ ☆ |
忍耐度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
初心者おすすめ度 | ★ ☆ ☆ ☆ ☆ |
見どころ | ・ご婦人たちの気狂いツンデレさ ・1,000ページの助走 ・またもや世の中の真理を言い当ててしまう |
ドストエフスキーは白痴のムイシュキン公爵を通して「完全に美しい人間」を描こうとしたとされています。
物語全体を通して全てを許容し、苦しむ人を見捨てられない公爵の姿勢にその意図はよく出ています。が、いかんせん長い!
冒頭が登場人物の出会いから始まるので、「これは…いつもより話が早いぞ!」と期待したものの、展開しそうでしないを繰り返します。
ナスターシャの過去話や公爵の発作が起きるタイミングで、スイッチが入ったかもと思いましたが、そうは問屋が卸してくれない。
ドストエフスキーは面白くなるタイミングが比較的明確ですが、およそ1,300ページ中1,000ページが助走だったのでは…と。
折り返しぐらいから、「おやおや、とんでもないツンデレ女たちに絡まれ続ける純朴な公爵で終わるのか」と頭をよぎる瞬間もありました。
そこそこに忍耐力を問われるので、いくつかドストエフスキーや海外文学を読んでから挑戦するのがおすすめです。
しかし、「カラマーゾフの兄弟」などよりは断然結末に必然性を感じるため、やたら長い助走も無駄じゃないと感じます。
また、白痴と呼ばれる公爵がかなりまともなことを言っていて、社会的に評価の高い人たちが明らかにおかしなことを言っており、相変わらず世の中を痛いくらいに言い当てている感じがとても怖い。
そして、「完全に美しい人間」が他者にある一定の優しさを与えられるとしても、自分を含めて全ての人を救えないのもまた感慨深いものがあります。
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ドストエフスキー白痴における名言
ドストエフスキー白痴における名言を紹介します。
以下は第4編の冒頭に登場人物のキャラクター性などについて言及している部分で記載されており、初めて物語以外について触れている箇所でもあります。
教育はちゃんとしていながら、とくに専門がない。分別は持っているが、自分自身の思想は持っていない。情はあるが、寛大さに欠けている。何から何まで、こんなふうである。世間にはこうした人たちがうようよしており、われわれが想像しているよりもはるかに多いのである。彼らはほかのすべての人びとと同様、大別すると二種類に分けられる。一つは枠にはまった人びとであり、もう一つはそれよりも<<ずっと聡明な>>人びとである。
引用元:白痴|ドストエフスキー 木村浩訳|新潮文庫
「自分自身の思想は持っていない」など該当することしかなく、毎度のことながらぐうの音も出ません。そして、以下のように続きます。
枠にはまった平凡な人にとっては、自分こそ非凡な独創的な人間であると考えて、なんらためらうことなくその境遇を楽しむことほど容易なことはないからである。
引用元:白痴|ドストエフスキー 木村浩訳|新潮文庫
「ええ、楽しませていただいています、すいません」という気持ちでいっぱいです。
さらに、以下のように続きます。
聡明な<<ありふれた>>人というものは、たとえちょっとのあいだ(あるいは一生涯を通じてかもしれないが)自分を独創的な天才と想像することがあっても、やはり心の奥底に懐疑の虫が潜んでいて、それがときには、聡明な人を絶望のどん底まで突きおとすことがあるからである。たとえ、それに耐えることができたとしても、それはどこか、心の奥底へ押しこめられた虚栄心に毒されてのことなのである。
引用元:白痴|ドストエフスキー 木村浩訳|新潮文庫
もう「ぐう」の「ぐ」の音もでず、無音です。「心の奥底に懐疑の虫」が潜んでいる方も多いでしょう。
1作品で1回は必ず世の理を言い当ててしまうドストエフスキーですが、今回も淀みなく正確に言い当ててしまうのでした。
▼その他の純文学作品の記事は、こちら。
ドストエフスキーを読む順番
ドストエフスキーを読む順番に正解はありません。
が、個人的には「地下室の手記」から読むのがおすすめで、理由は3つあります。
- ページ数が他の作品に比べて少ないから
- あまり人間関係が複雑でないから
- ドストエフスキーの考えがよく表れているから
「地下室の手記」のページ数は、250ページ程度(新潮文庫)と他の長編作品と比較すると少なめです。私は「地下室の手記」→「罪と罰」→「カラマーゾフの兄弟」と読んでいきました。
どの文学作品も「最後まで読む」ことが重要ですが、面白いものかどうか分からないままでは最後まで読めません。
他の有名な作品が面白いのはもちろんですが、面白くなるまでに時間がかかるため途中で飽きる可能性が高いといえます。
「地下室の手記」が面白かったからこそ他の作品の前置きがどれだけ長くても読めるし、他の文学作品が途中どんなにつまらなくても最後まで読めるのはドストエフスキーのおかげです。
▼ドストエフスキーを読み始めるなら以下の順番がおすすめ。ぜひ「なんだ…この面白さは…!震」を体感してください。
まとめ
フョードル・ドストエフスキーの長編小説の1つである「白痴」。
癲癇(てんかん)から回帰したムイシュキン公爵を通して「完全に美しい人間」を描こうとしたとされています。
面白くなるまでにページ数がかかるので、ドストエフスキーを何作か読んだり、海外文学を読んだりしている方に最適です。
ドストエフスキーを読むのであれば、比較的ページ数の少ない「地下室の手記」から読むのがおすすめ。
今回の記事を参考にしながら、読書ライフを楽しんでみてください。
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