「純文学でバッドエンドを味わいたい!」「バッドエンドでワクワクぞわぞわしたい!」という方も多いでしょう。
何だろう…このバッドエンドへのワクワクは!
純文学は国内・海外作品ともに清々しく打ちのめしてもらえるバッドエンド作品が数多くあり、夏目漱石やドストエフスキーなどさまざま。
そこで今回は、純文学のバッドエンドおすすめ作品を国内から海外まで幅広く紹介します。
純文学的バッドエンドの魅力やバッドエンドの定義についても解説するので、参考にしてください。
純文学おすすめバッドエンド作品8選
純文学おすすめバッドエンド作品として、以下の8つを紹介します。
それぞれの作品について、バッドエンド度やおすすめポイントなどの概要をまとめているので、参考にしてください。
※ストーリーの細かな過程を省いて結末を記載しているため、「物語を知ってから結末を知りたい」「直接的なネタバレNG」という方は、ご注意ください。
おすすめ作品①夏目漱石「それから」
項目 | 内容 |
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ページ数 | 361ページ(新潮文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
おすすめポイント | ・急 展 開!の息もつかせぬバッドエンド ・色や花の美しい描写も満喫できる ・これぞ高等遊民という生活ぶりが興味深い |
夏目漱石の「それから」は前期3部作の2作目にあたる作品で、最終的に主人公が全てを失った結果、人格が崩壊気味に終わります。
物語としては、主人公・代助が友人である西岡の妻であり、かつて恋心を抱いた女性・三千代と再会し、交流する中で昔の気持ちを思い出していく恋愛小説です。
途中までは「どうするの?やっぱり諦めるの?告白するの?」とやきもきしながら読んでいた訳ですが、後半からのワクワクが止まらない急 展 開!
また、夏目漱石は花などの自然の描写が美しいのも魅力ですが、「それから」でも椿や百合など印象的な表現が多くあります。
さらに、主人公の代助は大学を卒業後に仕事をせず、親のお金で暮らすいわゆる「高等遊民」。
夏目漱石作品でも圧倒的に仕事しない系の主人公なので、非日常的な生活ぶりも見どころです。
読みながら「他人の奥さんはどうでもいい!さっさと働きなさい!」と何度叫んだことか。
最終的に清々しいくらい全て失うので、ぜひ読んで震えてください。
おすすめ作品②夏目漱石「門」
項目 | 内容 |
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ページ数 | 311ページ(新潮文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
おすすめポイント | ・ストーリー全体がそもそも暗い ・びっくりするほど問題は解決しない ・日常系バッドエンドとしては最高峰 |
夏目漱石の「門」は「三四郎」「それから」に次ぐ前期3部作の3作目で、問題が全く解決せずに物語が終わります。
「門」は親友を裏切って御米と結ばれた主人公・宗助が、かつての親友・安井が自分の近くに迫っていることを知り、救いを求める様子を描いた長編小説です。
宗助の家が崖の下にあるなど、そもそもストーリー全体が暗く、割と最初から「これは幸せに…ならないな」の予感を誰しも持つでしょう。
また、安井に関する問題だけではなく、びっくりするほど全ての問題が解決しないまま、この生活がこれからも続くことが想定されるラストで、日常系バッドエンドとしては最高峰。
「そうだよね、日常的な問題なんて早々に解決するはずがないんだよね」という共感を身にしみて感じる作品です。
全体の暗さが抜群なので、ぜひ読んでどんよりしてください。
▼夏目漱石についてまとめた記事は、こちらもチェック。
おすすめ作品③有島武郎「或る女」
項目 | 内容 |
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ページ数 | 752ページ(新潮文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ☆ ☆ ☆ |
おすすめポイント | ・女の闇がピカイチ ・ラストの救いのなさは段違い ・落ちぶれ方が目を見張るレベル |
「或る女」は有島武郎による長編小説で、全ての人が主人公から離れていき、肉体的にも精神的にも苦しみ抜くラストを迎えます。
ストーリーとしては、主人公・葉子がアメリカ在住の実業家・木村と結婚するために渡米する途中で、船の事務長・倉地と駆け落ちし、日本に戻って生活する様子が描かれています。
女の激情と運命がよく表現されており、老いへの恐怖や独占欲などつい共感してしまう女の闇がピカイチな作品です。
洋子と倉地は自分たちが思うように生きるために、周囲の人を利用したり、犯罪に手を染めたりしており、落ちぶれ方が目を見張るレベル。
次の展開が気になりすぎて睡眠そっちのけで読んだのですが、何しろ700ページ以上の超大作で読むのに時間がかかるため、初心者へのおすすめ度を2としました。
バッドエンド好きでもちょっと引くレベルの不幸ぶりです、ぜひ。
▼「或る女」のあらすじなどが気になる方は、こちらもチェック。
おすすめ作品④芥川龍之介「歯車」
項目 | 内容 |
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ページ数 | 作品単体:41ページ(角川文庫) ※本全体では367ページ |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
おすすめポイント | ・ページ数が少なく読みやすい ・ホラー的な要素もある ・カラマーゾフの兄弟を読んでると一層楽しい |
芥川龍之介の「歯車」は作家自身の心象が描かれた晩年の作品で、この世を去りたいという悲痛な願いでラストが締めくくられます。
基本的に日常風景の描写が続きますが、行く先々にレイン・コートを着た男(幻覚)が現れたり、身に覚えのないところで誰かが自分(ドッペルゲンガー)に会ったりするなどのホラー的な奇怪現象が発生しているのが特徴。
作中の一説にも「カラマーゾフの兄弟」が出てくるように、追い込まれ方が次男・イワンを思わせるため、カラマーゾフの兄弟を読んでいる場合にはより一層楽しめるでしょう。
文庫本ベースで41ページと文量が少なく、時間のない場合にも手軽に読める作品です。
レイン・コートの男に、ぜひゾワゾワしてください。
おすすめ作品⑤大江健三郎「芽むしり仔撃ち」
項目 | 内容 |
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ページ数 | 240ページ(新潮文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
おすすめポイント | ・薄い!短い!明快! ・タイトルを裏切らない展開 ・バッドエンド好きでも引くレベル |
ノーベル文学賞も受賞した大江健三郎の初の長編小説である「芽むしり仔撃ち」は、戦時中に集団疎開した主人公が集団疎開した村で全てに見放されて終了します。
「全て」というと家族と友人ぐらいだろうと思って読んでみると、大江健三郎はそんな生ぬるいことはしません。
ありとあらゆる人から見放される過程は、バッドエンド好きの私も大いに引きました(そしてちょっと後を引いた)。
解説に「これはフィクションであり、作者の想像です」的なことが書かれていて、どれだけ私が安心したことか…!
全10章で構成されており、ページ数も250ページ程度なので比較的読みやすい1冊です。
ぜひ、横に優しいエッセイを備えて読んでください。
▼初心者におすすめな純文学作品をまとめた記事は、こちら。
おすすめ作品⑥ドストエフスキー「悪霊」
項目 | 内容 |
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ページ数 | 上巻:651ページ(新潮文庫) 下巻:758ページ(新潮文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ☆ ☆ ☆ |
おすすめポイント | ・登場人物は基本的に誰も幸せにならない ・助走期間が短くて比較的早めに面白くなる ・世の真理が詰まり過ぎている |
「悪霊」はドストエフスキーの5大長編の1つで、登場人物がことごとく不幸になり、最後には主人公のニコライが自ら命を絶ちます。
ラストに打ちのめされすぎて、読み終わりにボーッと天井を見つめていたことを思い出します。
無神論革命思想を「悪霊」に見立て、取り憑かれた人々の破滅を描いとされており、実際に発生したネチャーエフ事件に基づいて構想された作品です。
最初の200ページくらい耐えれば後の1,000ページ強はあっという間に感じられるほどに面白く、ドストエフスキー作品としては助走が比較的短め。
ドストエフスキー作品は世の真理を言い当て過ぎてちょっと読者が不安になる節がありますが、「悪霊」には以下の件があります。
つまりは、この地球の法則そのものが虚偽であり、悪魔の茶番劇だということになる。なんのために生きるのか、きみが人間であるなら、答えてみたまえ
ドストエフスキー「悪霊」
毎回のことながら「どうして本当のこと言っちゃうのー!」と、ワクワクとゾクゾクが止まりませんでした。
少々長いですが、ぜひ最後まで読んで、打ちのめされてください。
▼ドストエフスキーの他の作品が気になる方は、こちらもチェック。
おすすめ作品⑦ジョージ・オーウェル「1984年」
項目 | 内容 |
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ページ数 | 511ページ(ハヤカワepi文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
おすすめポイント | ・物理的に救われたが精神的にはどん底 ・癖になるトラウマ級のバッドエンド ・優しいエッセイを用意しておくのがおすすめ |
ジョージ・オーウェル「1984年」では、主人公やヒロインは物理的・肉体的には救われるものの、精神的にはどん底に陥り、なかば人格が壊れる形で物語が終了します。
「1984年」は、全体主義国家によって3つの国に分割統治された中で、主人公・スミスが政府に疑問を持ち、行動することで不幸と恐怖に巻き込まれるディストピア小説。
他の作品が読み終わりに「は〜〜〜!」と一瞬で気持ちが終わるのに対して、「1984年」はトラウマ級のバッドエンドで後を引き続ける感じがあります(今もなお)。
主人公が政府に不都合な過去を修正する仕事をしていたり、テレスクリーンというテクノロジーで国民の生活が監視されたりしているなど、身に沁みる恐怖があるのも後味が終わらない理由の1つです。
なかなかのどん底なので、優しいエッセイを待機させていくのがおすすめ。
おすすめ作品⑧バルザック「ゴリオ爺さん」
項目 | 内容 |
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ページ数 | 591ページ(古典新訳文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
おすすめポイント | ・ゴリオ爺さんの報われなさが止められない ・途中からテンポ良しであっという間 ・ヴォートランの誘惑が半端じゃない |
バルザックの「ゴリオ爺さん」は世界の10大小説の1つで、ラストでは娘に金をむしられ続けるゴリオ爺さんに微塵も救いがないまま最期を迎えます。
「地獄の沙汰も金次第」という言葉がありますが、ゴリオ爺さんは亡くなってもなお金次第過ぎて辛い気持ちでいっぱいでした。
「ゴリオ爺さん」は下宿屋ヴォケール館を舞台に、法学生で社交界に進出しようとするラスティニャックや隠居しているゴリオ爺さんなど、ヴォケール館に住む人々の人間模様を描いた作品です。
なかでもヴォケール館に住んでいる謎の男・ヴォートランのカリスマ性が優れており、うっかり読者も魅了されてしまうレベル。
序盤の登場人物紹介が終わればかなりテンポ良く進み、ページ数の割には読了までに時間がかからない印象です。
タイトルからおじいさんの一生を描いた作品と勘違いして、あわや読まないところだった…危ない。
▼バッドエンド好きの心理についてまとめた記事は、こちら。
純文学的バッドエンドの魅力とは?
「純文学的バッドエンドの魅力」について紐解いていきましょう。
ここでは、以下の観点から解説していきます。
ポイントを押さえておけば、作品をさらに楽しめること間違いなしです。
そもそもバッドエンドとは?
コトバンクによると、バッドエンドの定義は以下の通りです。
小説・演劇・映画などで、物語が不幸な結末を迎えること。
コトバンク
そうバッドエンドとは「不幸な結末を迎える」ことですが、不幸には意外と多くのバリエーションがあります。
一概に「登場人物が最期を遂げる」ラストが、バッドエンドだとは限りません。
その他にも、問題が解決しないまま日常が続いたり、周囲に見捨てられたり、色々とおかしくなってしまったり、と。
そして、その多種多様なバッドエンドを味わえるのが純文学です。
文豪の言葉より紐解いてみる
さて、ハッピーエンド作品でワクワクできるのであれば非常に手っ取り早いのですが、どうしてバッドエンド作品に惹かれるのでしょうか。
ここでは、文豪の言葉を基づきながら解説していきます。
バッドエンド好きの私としても長年の不思議だったのですが、やはり文豪が解決してくれるという。
坂口安吾「文学のふるさと」より
坂口安吾「文学のふるさと」では、「救いのないこと自体が救いである」としています。
オオカミに食べられてしまう赤ずきんの話を例に挙げた上で、以下の件があります。
私達はいきなりそこで突き放されて、何か約束が違ったような感じで戸惑いしながら、然し、思わず目を打たれて、プツンとちょん切られた空しい余白に、非常に静かな、しかも透明な、ひとつの切ない「ふるさと」を見ないでしょうか。
坂口安吾「文学のふるさと」
その他にも2〜3つの例を挙げながら話が進み、終盤の締めくくりは、以下の通りです。
生存の孤独とか、我々のふるさとというものは、このようにむごたらしく、救いのないものでありましょうか。私は、いかにも、そのように、むごたらしく、救いのないものだと思います。(中略)最後に、むごたらしいこと、救いのないということ、それだけが、唯一の救いなのであります。(中略)私は文学のふるさと、或いは人間のふるさとを、ここに見ます。
坂口安吾「文学のふるさと」
人間の孤独には安易な救いがなく、むしろ救いのないことが救いであり、文学のふるさともここにあるとしています。
純文学に描かれる救いのないストーリーが、自身の根源的な悩みや孤独と重なるとき、共感を超えたえも言われぬ肯定を感じるのではないでしょうか。
▼坂口安吾「文学のふるさと」が気になる方は、こちらをチェック。
※中古のみの取扱いです。
芥川龍之介「夢」より
芥川龍之介「夢」では、「毒をもって毒を制す」としています。
バッドエンドについて書かれた文章ではありませんが、「夢」には以下の件があります。
それは憂鬱そのものと言っても差し支えない景色だった。しかし、銀座や浅草よりもわたしの心もちにぴったりしていた。「毒をもって毒を制す」ーーわたしはひとり土手の上にしゃがみ、一本の煙草をふかしながら、時々そんなことを考えたりした。
芥川龍之介「夢」
上記は景色について描写された文章ではあるものの、バッドエンドを読むときの気持ちに重なる部分が多くあり、共感が半端じゃありません。
自身の悩みや課題に対する解毒として、純文学のバッドエンドの用いているともいえます。
「毒を食らわば皿まで」という言葉もあるように、バッドエンドが気になる方はどんどん読んでいきましょう。
▼芥川龍之介の「夢」が気になる方は、こちらをチェック。
▼バッドエンドの種類についてまとめた記事は、こちら。
まとめ
純文学のバッドエンド作品は、国内から海外までさまざまな作品があります。
バッドエンドを味わえる純文学作品として今回紹介した作品を、おさらいしましょう。
- 夏目漱石「それから」
- 夏目漱石「門」
- 有島武郎「或る女」
- 芥川龍之介「歯車」
- 大江健三郎「芽むしり仔撃ち」
- ドストエフスキー「悪霊」
- ジョージ・オーウェル「1984年」
- バルザック「ゴリオ爺さん」
また、坂口安吾の「文学のふるさと」・芥川龍之介の「夢」の一節から、純文学的なバッドエンドの魅力を解説しました。
今回の記事を、読書ライフを楽しむ参考にしてください。
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