「初心者が読みやすい純文学の古典作品を知りたい」と考える方も多いでしょう。

思えば私も出会いが良かったから、純文学に沼った訳だ。
芸術性を重視した純文学は分かりにくいイメージもありますが、教科書に採用されている作品も多く、比較的読みやすい作品もあります。
しかし、最初に出会うべき作品を間違えると「読みづらい」「つまんない」と感じてしまい、読書すら嫌になる場合もあるので注意が必要です。
そこで今回は、純文学初心者向けに読みやすい古典作品を紹介します。
作品の選び方や楽しみ方についても解説するので、参考にしてください。
純文学初心者向けに読みやすい古典作品

純文学初心者向けの読みやすい古典作品は、以下の通りです。
- 夏目漱石「こころ」
- 太宰治「人間失格」
- 芥川龍之介「羅生門」
- 川端康成「雪国」
- 志賀直也「城の崎にて」
読破した経験からおすすめポイントも紹介するので、作品を探している方はぜひ参考にしてください。
【関連記事】純文学でバッドエンドを味わいたい!おすすめ作品を紹介!震えて眠れ絶望セレクション
【関連記事】純文学の楽しみ方を徹底解説|気持ち悪いって本当?起承転結があるのかも紹介
夏目漱石「こころ」

項目 | 内容 |
---|---|
作者/作品名 | 夏目漱石/こころ |
ページ数 | 384ページ(新潮文庫) |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
おすすめポイント | ・高校の現代文で一部読んだ経験がある ・場面展開が明確で分かりやすい ・700万部を超えるベストセラー |
夏目漱石の「こころ」は誰しも一度は高校の現代文で読んだ経験があり、比較的取り組みやすい作品です。
主人公である「私」が鎌倉で「先生」と出会うところから始まり、先生からの手紙によって先生・友人のK・お嬢さんの関係を中心とした心理的な葛藤が描かれています。
作品は「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」の3部構成で、明確に場面が分かれるため飽きずに読めるでしょう。
新潮文庫では700万部を超える(2014年)ベストセラーを記録しており、長年広く愛され続けられてる1冊です。
参考元:デイリー新潮|夏目漱石『こころ』700万部突破!連載開始から100年で

私は純文学読み始め期に「こころ」を読んで文章の美しさに驚きました。そして何度読んでも深く沁みる作品です。
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太宰治「人間失格」

項目 | 内容 |
---|---|
作者/作品名 | 太宰治/人間失格 |
ページ数 | 192ページ(新潮文庫) |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
おすすめポイント | ・200ページ以内で章立てあり ・弱さと美しさに引き込まれる ・新潮文庫のプレミアムカバー化は最多作品 |
太宰治の「人間失格」は200ページ以内で章立てがあり、初心者でも読みやすい作品です。
巻末の解説を除いた文量は155ページ程度で、「はしがき」「第一の手記」「第二の手記」「第三の手記」「あとがき」の5部構成となっているため、1日10ページでも2週間程度で読めます。
文章表現が美しいのはもちろんですが、弱く落ちぶれてしまう男性がこんなにも愛おしく感じるものかと最初読んだときにひどく驚きました。
新潮文庫が7〜8月に実施する「新潮文庫の100冊」フェアでのプレミアムカバー化は、夏目漱石の「こころ」を押さえて過去最多の人気作です。

個人的に弱い男性は好きじゃありませんが、本当に太宰治だけは別格。
【関連記事】新潮文庫のプレミアムカバーとは?いつからいつまで販売しているかなども紹介
芥川龍之介「羅生門」

項目 | 内容 |
---|---|
作者/作品名 | 芥川龍之介/羅生門 |
ページ数 | 作品単体:10ページ(新潮文庫) ※本全体では304ページ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
おすすめポイント | ・作品単体はたったの10ページ! ・ゾクゾク感が堪らない ・新潮文庫では「鼻」「芋粥」なども収録 |
高校の教科書でお馴染みの芥川龍之介「羅生門」は、文庫版にしてたった10ページの作品で、短時間で読み終われます。
ページ数の少なさに反して、平安時代の一種のホラーとファンタジー感のあるゾクゾクとワクワクの止まらないのが羅生門の魅力。
羅生門は「今昔物語集」をベースとしており、古典文学の面白さを体感するきっかけにもなります。
新潮文庫では「鼻」「芋粥」などの有名作品も同時に収録しているので、さまざまな作品に触れられるのもメリットです。

定期的にそして無性に読みたくなる、それが「羅生門」。
川端康成「雪国」

項目 | 内容 |
---|---|
作者/作品名 | 川端康成/雪国 |
ページ数 | 224ページ(新潮文庫) |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
おすすめポイント | ・約200ページと文量は短め ・端から端まで文章表現が美しい ・日本独特の色彩や文化に触れられる |
新潟県の湯沢温泉を舞台とした川端康成の「雪国」は男女の心の葛藤を描いた作品で、約200ページと文量は短めです。
内容はもちろん冒頭も非常に有名であり、端から端まで文章表現が美しいのが魅力。
「濃深縹色(ふかはなだいろ)」や「雪ざらし」など、日本独特の色彩や雪国ならではの文化に触れられます。

作中で描かれる「雪ざらし」は人生一度は見てみたい光景の1つです。
志賀直也「城の崎にて」

項目 | 内容 |
---|---|
作者/作品名 | 志賀直也/城の崎にて |
ページ数 | 作品単体:9ページ(新潮文庫) ※本全体では336ページ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
おすすめポイント | ・作品自体は非常に短い ・生と死の観察が鮮やか ・他に収録された作品も読みやすい |
小説の神様とも呼ばれる志賀直也の「城の崎にて」は、高校生の現代文としても扱われる作品です。
文庫版で9ページと非常に短いながら、動物の死から考える自らの生に対する観察が鮮やかで簡潔にまとまっています。
その他に収録された「佐々木の場合」や「小僧の神様」など、読みやすい作品が多く初心者にもおすすめな短編集です。

個人的には人間観察が行き届いた「佐々木の場合」が好き。
純文学とは?大衆文学との違いも解説

「純文学」は芸術性を重視した小説であり、二葉亭四迷の「浮雲(1887〜1889年)」が純文学の始まりとされています。
純文学作品の特徴は、以下の通りです。
- 文章表現が美しく心が洗われる
- 起承転結が曖昧で結末がない場合がある
- 人間の根源的な苦悩が表現されている
一方で、娯楽性に主眼を置いている小説は「大衆文学」と呼ばれており、大衆文学はSFや推理小説などさまざまなジャンルも含んでいます。
両者の違いは文学賞を見ると明らかで、以下の通りです。
項目 | 芥川賞 | 直木賞 |
---|---|---|
ジャンル | 純文学 | エンターテインメント作品 |
正式名称 | 芥川龍之介賞 | 直木三十五賞 |
作家のキャリア | 新進作家 | 新進・中堅作家 |
対象 | 雑誌に掲載された中・短編作品 | 単行本(長編または短編集) |
掲載誌 | 文藝春秋 | オール読物 |
【関連記事】純文学と大衆文学の違いとは?芥川賞と直木賞の相違点についても解説
純文学初心者の作品の選び方

純文学初心者の作品の選び方のポイントは、以下の通りです。
- ページ数で選ぶ
- あらすじで選ぶ
- 学校で習った作品群から選ぶ
ポイントを押さえておけば、スムーズに作品選びができるでしょう。
ページ数で選ぶ|厚い本や難易度の高い作品は次の機会に

つい意気込んで難しい作品やページ数の多い作品を選びがちですが、最初のうちは200ページ前後の比較的ページ数の少ない作品がおすすめです。
ページ数が少なければ良いという訳ではないものの、読みづらい部分もある純文学で500ページ超えなど厚めの作品を選ぶと「読めども読めどもわが読書捗らず…」といった啄木現象が。
ページ数が少ない作品のメリットは、以下の通りです。
- 1日10ページでも1ヶ月弱で読める(200〜300ページ以内を想定)
- 携帯性に優れている
- 場面展開がなくても比較的気にならない
また、読書がなかなか進まないという点で、海外文学など難易度が高い作品も最初の作品としては不向きだといえます。
私は高校生の頃から年に1回ヘッセの「車輪の下」を挑戦していましたが、結局ちゃんと全部読んだのはおよそ10年後でした。

毎回毎回、神学校を辞めるか辞めないかあたりで挫折する。
向き不向きはもちろんあるものの、興味を持ち始めの頃「なるべくページ数が少なく、有名な作品から攻めるべし」がおすすめです。
【関連記事】ヘッセ「知と愛」一生に一度出会えるかどうか級の名作|あらすじや感想を紹介
あらすじで選ぶ|直感的に合う合わないが判断できる

自分が好きな傾向や興味のある作家が明確でない場合は、あらすじを読んで純文学作品を選びましょう。
当たり前のことのように感じますが、つい「作家名」「タイトル」「ジャケット」「帯」などに目が行って、あらすじは後回しにしがちです。

あらすじを先入観なしに読むと、「面白そう」「興味ない」を判断できます。
文庫本で購入するなら裏表紙にあらすじを記載しているレーベルが多いので、参考にしてみてください。
また、ECサイトで購入する場合にはレビューを参考にするのも1つの方法です。
「学者かな?」という印象を受ける難しい感想もありますが、個人的には一般の目線に近い素直なレビューを見つけて、参考にするようにしています。
【関連記事】文庫本の裏表紙のあらすじは誰が書いている?部位の名称やカバー下デザインも解説
学校で習った作品群から選ぶ|成功体験があればある程度読める
学校で習った作品群は一度読んだ成功経験があり、最後まで読み切る可能性を高めてくれます。
学校で習った純文学の作品例は、以下の通りです。
- 夏目漱石「こころ」
- 中島敦「山月記」
- 森鴎外「舞姫」
- 芥川龍之介「羅生門」
- 太宰治「走れメロス」
- 森鴎外「高瀬舟」
- 夏目漱石「坊っちゃん」
- 宮沢賢治「注文の多い料理店」
また、学校で習った作品は曖昧にしか覚えていないケースも多く、「あの作品は何だったんだっけ?」から入るのも良いでしょう。
個人的にも、「夏目漱石のこころは結局どんな話だったの?」や「メロスは何で走ってたんだっけ?」から純文学の読書が始まりました。

もし最初に何の脈絡もなくドストエフスキーとか読んでたら挫折してたな…今となっては大好きだけど。
【関連記事】自分に合った本の選び方!コツを押さえて夢中になれる1冊を見つけよう
参考元:三省堂|高校国語教科書 出典一覧(現代文)
新潮社|教育出版
奈良県立図書情報館|「教科書に載っている本~中学校の国語の教科書~」図書リスト
光村図書出版|出典一覧 中学校 国語
純文学はつまんない?楽しみ方を紹介

「純文学読んでるの?つまんないよね?」と言われ続けて早10年強。
個人的にはこんなにも面白く、結末が予想できないジャンルもないと思って楽しく読んでいますが、世間的には「純文学=つまんない(エンタメ性に欠ける)」という認識なのはよく理解しています。
純文学を読み始めた頃からずっと継続しているのが、気になった表現を書き写しておく一種の写経です。

当初はそんなつもりはなかったものの、これが意外と人生の至る所で役に立ちます。
仕事と人生に疲れていたり、人間関係に悩んでいたりするときに、パラパラめくっていると自分に今必要な言葉が目に止まって、何となく勇気が出るという。
表現自体はお世辞にも明るいとは言えないものの、今の自分にぴったりな言葉が見つかると、自己同一性が保たれて割とスッキリします。

自分のペースで自分なりの楽しみ方を確立していくと、継続的に取り組める趣味になっていくものだと日々実感中です。
まとめ

純文学とは芸術性を重視した小説のことで、美しい文章表現が楽しめるなどの特徴があります。
純文学初心者の作品の選び方を、おさらいしましょう。
- ページ数で選ぶ
- あらすじで選ぶ
- 学校で習った作品群から選ぶ
初心者におすすめな純文学作品として、夏目漱石「こころ」や太宰治「人間失格」などを紹介しました。
今回の記事を、読書ライフを楽しむ参考にしてください。
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