「夏目漱石のこころについて、あらすじを簡単に知りたい」という方も多いでしょう。
誰しも高校の現代文で習いますが、往々にしてあの時には面白さに気づけない。
ストーリーの概要を把握することで、読んでみたくなったり、作者に興味を覚えたりする可能性も。
そこで今回は、夏目漱石の「こころ」についてあらすじを簡単に解説します。
夏目漱石のこころの印象に残る言葉・場面やおすすめポイントも紹介するので、参考にしてください。
夏目漱石のこころのあらすじを簡単に解説
夏目漱石のこころについて、以下のポイントからあらすじを簡単に解説していきます。
高校時代に習ったという方も、これから学校で習うという方も、ぜひチェックしてみてください。
全体のあらすじ【簡単に200字で】
夏目漱石「こころ」のあらすじを簡単に200字程度でまとめると、以下の通りです。
上記は「こころ」全体のあらすじですが、物語は上・中・下の3部構成となっており、それぞれ「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」とタイトルが付いています。
高校の現代文では、Kとお嬢さんが登場する「先生と遺書」の部分を学習するのが一般的です。
詳しいあらすじは、次の章で解説していきます。
各章のあらすじ【そこそこ詳しく】
夏目漱石「こころ」のあらすじについて、以下の各章から解説します。
それぞれのあらすじをチェックして、内容を深めていきましょう。
上|先生と私
「先生と私」では「私」と「先生」との出会い・交流が描かれており、先生の過去の話を聞く約束をするところまでが描かれています。
詳しいあらすじは、以下の通りです。
- 鎌倉の海水浴場で先生の眼鏡を拾ったことをきっかけに先生と私の交流が始まる
- 東京に戻り、先生を何回か訪ねるが不在。雑司ヶ谷へ墓参りをする先生を追いかけて再開を果たす
- 折に触れて先生が「子どもができないのは天罰だ」「恋は罪悪だ」と話すのを不思議がる
- 先生の奥さんと話すと「昔はああじゃなかった」と言われてますます謎が深まる
- 話の弾みに先生の言葉で要領を得ないことがあるからはっきり言って欲しいとお願いすると、先生が自身の過去について話をすると約束してくれる
そういえば、先生は何の「先生」なのか?
「先生」は学校などの教師や講師などではなく、「私」が勝手に呼んでいたあだ名に近いというところが面白いポイント。
私が先生先生と呼びかけるので、先生は苦笑いをした。私はそれが年長者に対する私の口癖だと言って弁解した。
夏目漱石「こころ」
また、「先生と私」の章では、先生が故人であることが明かされています。
奥さんは今でもそれを知らずにいる。先生はそれを奥さんに隠して死んだ。先生は奥さんの幸福を破壊する前に、まず自分の生命を破壊してしまった。
夏目漱石「こころ」
「自分の生命を破壊してしまった」と最初から結末が分かっており、バッドエンドが予告されているのにも関わらず、切なくて儚くてワクワクして読めるのが「こころ」の魅力です。
中|両親と私
「両親と私」では、「私」が卒業報告のために帰省してそのまま父親が危篤状態になり、先生の手紙を受け取るところまでが描かれています。
詳しいあらすじは、以下の通りです。
- 大学卒業の報告のために実家へ帰省する
- 明治天皇崩御のニュースがあり、近所を招いた卒業祝いの会は中止となる
- 東京に戻る間際に父親が卒倒し、どんどん衰弱していくため、東京には戻れない状態が続く
- 先生から「ちょっと会いたいが来られるか?」と電報があったものの、父親の容体が分からないため断る
- 先生から分厚い手紙が届き、「この手紙があなたの手に落ちるころには、私はもうこの世にはいないでしょう」の文章を読んで汽車に飛び乗る
タイトルが「両親と私」となっている通り、「先生」は手紙や電報以外では登場せず、帰省中の話が中心になっています。
ストーリーと同時進行するのは語り手である「私」の就職問題。父の体調が日々悪くなるなかで、「先生に斡旋してもらえ」と言われて「私」は先生に手紙を出すシーンもあります。
ただし、「私」の予想通りに先生から目当ての返事は来ず、「この手紙があなたの手に落ちるころには、私はもうこの世にはいないでしょう」と書かれた衝撃の手紙を受け取りました。
下|先生と遺書
「先生と遺書」は「先生」の手紙の内容となっており、先生・お嬢さん・Kの三角関係について主に言及されています。
詳しいあらすじは、以下の通りです。
- 先生が20歳の頃に両親が他界し、相当な財産を持っていたものの、遺産を叔父に騙し取られた
- 残った財産を現金化し、小石川近くである軍人の未亡人と娘(お嬢さん)が暮らす家で下宿することを決める
- 同郷で昔からの知り合いのKが心身ともに衰弱していることを知り、下宿へ呼ぶ
- かなり頑固で一本気なKだったが、奥さんとお嬢さんの力で解きほぐれる
- ときどきKの部屋で楽しそうに話すお嬢さんの姿を見るようになり、一緒に外出したと思われる場面に出くわす
- Kから「お嬢さんに恋をしてる」と告白される
- 自分もお嬢さんが好きであると告白する機会を逃し続けるなかで、Kから「どう思うか?」と聞かれる。先生は「目指す道を外れる覚悟はあるか?」と尋ねると「あるかもしれない」と言われる
- Kの覚悟が怖くなり、先生は奥さんに「お嬢さんを下さい」と直談判する
- 先生からKにお嬢さんとの結婚について報告するか迷っている間に奥さんがKに話してしまう
- それから2日後にKが下宿で首を切って自殺する
Kの死亡が物語のピークとなり、結末にはKの死亡について書かれた新聞記事や先生の奥さん(お嬢さん)には結局全てを打ち明けられなかったなど、後日談が記載されています。
さて、「先生と遺書」のパートで誰もが一度は考えるのは「Kが死んだ理由」と「先生が死を選ぶ理由」ではないでしょうか。
Kが死んだ理由
Kの死んだ理由は非常に複雑ですが、自身が目指すべき道から外れて恋に夢中になりかけたことが主な理由だと考えられます。
Kは非常に頑固な性格で、作中の表現によると以下の通りです。
道のためにはすべてを犠牲にすべきものだというのが彼の第一信条なのですから、摂欲や禁欲は無論、たとい欲を離れた恋そのものでも道の妨害になるのです。Kが自活生活をしている時分に、私はよく彼から彼の主張を聞かされたのでした。
夏目漱石「こころ」
遺書には「もっと早く死ぬべきだのになぜ今まで生きていたのだろう」との言葉があり、本来はお嬢さんに恋心を抱いた時点で死ぬべきだったとも捉えられます。
また、遺書には書かれていないものの、「先生に裏切られたこと」や「先生がお嬢さんに恋をしているのに気づけなかった自分を恥じたこと」も理由の1つだと考えられるでしょう。
先生が死を選ぶ理由
先生が死を選ぶきっかけとなったのは明治天皇の崩御ですが、具体的な理由はKに対する罪悪感が主な理由だといえます。
私はただ人間の罪というものを深く感じたのです。その感じが私をKの墓へ毎月行かせます。(中略)自分で自分を殺すべきだという考えが起ります。私は仕方がないから、死んだ気で生きて行こうと決心しました。
夏目漱石「こころ」
「もし自分がお嬢さんと結婚しなかったら」「Kにお嬢さんのことが好きだと打ち明けられたら」と、たらればを繰り返していただろうと想像できます。
また、自分を騙した叔父と同じことをしていると認識して、自身に失望したことも理由の1つです。
自分もあの叔父と同じ人間だと意識した時、私は急にふらふらしました。ひとに愛想を尽かした私は、自分にも愛想を尽かして動けなくなったのです。
夏目漱石「こころ」
ただし、先生が故人であることや、自ら死を選んだ旨は「先生と私」に記載されていますが、「先生と遺書」の中には「私」が東京に着いた後のことが書かれていないため、すぐに亡くなったのかは判断できません。
終わり方【ネタバレあり】
夏目漱石「こころ」の終わり方は、Kの自殺のあとの後日談がいくつか書かれており、以下のように物語が終了します(クリック・タップで広げてください)。
- お嬢さんと2人でKの墓参りに行ったり、酒に溺れたりするなどの後日談が描かれる
- この手紙を読むころには先生がいないことが示唆されている
- 妻には何も知らせないで欲しい、打ち明けられた内容は秘密として腹にしまっていて欲しいとお願いが書かれている
「先生」がどうなったのか、「私」が東京にたどり着いてどんなアクションを起こしたのか、「私」の父親が危篤後に本当に死んだのかなど、さまざまなラストが分からないままです。
ただし、Kの最期が書かれており、事前に先生は故人であることが言及されているため、物語上重要なことは描かれているといえます。
こころの作品情報
夏目漱石の「こころ(こゝろ)」は、1914年に朝日新聞に「心 先生の遺書」として掲載された作品です。
当初は「心」をテーマにした短編を書く予定だったが、「先生の遺書」が想定を超えて長いストーリーとなったため現在の形式となりました。
「彼岸過迄「行人」と並んで後期3部作の1つとされている夏目漱石の代表作であり、高校の現代文で習った記憶がある方も多いでしょう。
新潮文庫の累計発行部部数は700万部(2014年時)を超える大ベストセラーで、「新潮文庫の100冊」フェア時にはホワイトのプレミアムカバーで出版。
また、新潮文庫だけではなく、ちくま文庫・講談社文庫・角川文庫・岩波文庫・集英社文庫からも発売されています。
▼夏目漱石の他の作品についてまとめた記事は、こちら。
参考元:PR TIMES|2023年「新潮文庫の100冊」フェアがスタート
デイリー新潮|夏目漱石『こころ』700万部突破!連載開始から100年で
夏目漱石のこころのおすすめポイント・レビュー
面白さ | ★ ★ ★ ★ ☆ |
読みやすさ | ★ ★ ★ ★ ☆ |
忍耐度 | ★ ☆ ☆ ☆ ☆ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
見どころ | ・純文学初心者でも挫折しない読みやすさ ・場面展開が明確で飽きない ・誰しも経験するエゴや罪悪感が描かれている |
夏目漱石の「こころ」は文章の美しさや内容の濃さはもちろん、高校の教科書に採用されているように、純文学初心者でも挫折しない読みやすさが魅力です。
かく言う私もファースト純文学は、太宰治「人間失格」と夏目漱石「こころ」でした。
高校生以来に読み直したいと考えている方だけではなく、純文学初心者にもおすすめの作品です。
さらに、「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」と3部構成になっており、かつストーリーの展開も明確なので飽きずに読めるでしょう。
遺産暮らしする「先生」など非日常感はありますが、作中で描かれる友人や家族に対するエゴや罪悪感は、レベルは違えど誰しも経験するもので親近感があります。
例えば、友人が自分と同じ人を好きになって先手を打たれて焦ったり、友人や家族の期待を裏切ったことに対して罪悪感を感じたりする経験を持つ方は多いはず。
自分ごととして物語を捉えやすいことから、ストーリーに没入しやすいのもメリットです。
\\夏目漱石の「こころ」が気になった方は、こちらをチェック!//
▼夏目漱石作品を含めて純文学のおすすめ作品を集めた記事は、こちら。
夏目漱石のこころの印象に残る言葉・場面
ここでは、夏目漱石の「こころ」の印象に残る言葉・場面を紹介していきます。
「名作とは聞くけど、具体的にどんな表現・シーンがあるの?」と気になる方は、チェックしてみてください。
印象に残る言葉
夏目漱石の「こころ」の印象に残る言葉として、「先生と遺書」の中の「私」に対して向けられた部分を紹介します。
私はその時心のうちで、はじめてあなたを尊敬した。あなたが無遠慮に私の腹の中から、ある生きたものをつかまえようという決心を見せたからです。私の心臓を立ち割って、暖かく流れる血潮をすすろうとしたからです。その時私はまだ生きていた。死ぬのがいやであった。それで他日を約して、あなたの要求をしりぞけてしまった。私は今自分で自分の心臓を破って、その血をあなたの顔に浴びせかけようとしているのです。私の鼓動がとまった時、あなたの胸に新しい命が宿ることができるなら満足です。
夏目漱石「こころ」
「繊細さ」と「大胆」を併せ持つ夏目漱石の魅力が凝縮された言葉で、何度読んでもここの部分は印象的です。
「先生の過去を知ろうとした」=「私の心臓を立ち割って、暖かく流れる血潮をすすろうとした」「ある生きたものをつかまえよう」という表現に、文庫を持つ手が思わず震えます。
もし私ならここで回れ右したい気持ちになる…!
夏目漱石には神経質で繊細なイメージがありますが、同じくらい力強さがあり、「こころ」にはよく表現されていると個人的には感じています。
印象に残った場面
夏目漱石の「こころ」で印象に残った場面は、ドラマやアニメのように映像的に表現されている部分で、以下の通りです。
逆光で相手の表情が見ない表現はアニメなどでもよく見かけますが、表情が見えないことで不穏な予感が伝わってきます。
作中の文章は、以下の通りです。
見ると、あいだの襖が二尺ばかりあいて、そこにKの黒い影が立っています。そうして彼の部屋には宵のとおりまだ灯火がついているのです。急に世界の変った私は、少しのあいだ口をきくこともできずに、ぼうっとして、その光景をながめていました。
夏目漱石「こころ」
(中略)Kはランプの灯を背中に受けているので、彼の顔色や目つきは、まったく私にはわかりませんでした。
その他にも、街中でKとお嬢さんにすれ違う場面や、Kの遺体発見後の血潮を確認するまでの部分も、映画を見ている気分になります。
美しい表現だけに留まらず、空間的・映像的に想像しやすい描写が多くあるのが「こころ」の魅力です。
100年以上も前に執筆されたなんて本当に信じられない。
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余談の感想
余談の感想は、以下の通りです。
それぞれについて、詳しく紹介していきます。
夏目漱石と芥川龍之介と「先生の死」
芥川龍之介は夏目漱石の門下生としても有名ですが、芥川が亡くなる1927年に発表された「或阿呆の一生」には、以下のような文章があります。
十三 先生の死
芥川龍之介「或阿呆の一生」
彼は雨上りの風の中にある新しい停車場のプラットフォオムを歩いていた。空はまだ薄暗かった。プラットフォオムの向うには鉄道工夫が三、四人、一斉に鶴嘴(つるはし)を上下させながら、何か高い声にうたっていた。
雨上がりの風は工夫の唄や彼の感情を吹きちぎった。彼は巻煙草に火もつけずに歓びに近い苦しみを感じていた。「センセイキトク」の電報を外套のポケットへ押しこんだまま。……
そこへ向うの松山のかげから午前六時の上り列車が一列、薄い煙を靡(なび)かせながら、うねるようにこちらへ近づきはじめた。
狙ったものかどうかは定かではありませんが、「こころ」における私が先生の遺書を受け取って汽車に乗ったシチュエーションと、芥川龍之介が先生である夏目漱石の危篤の電報を受け取って汽車に乗るシチュエーションがオーバーラップします。
どちらにも「知らせ(手紙・電報)」があり、「先生の死の予感」があるという状況。
もちろん夏目漱石は「こころ」の先生のような死に方はしていませんが、芥川龍之介がもし1番驚いたシーンを切り取るとしたら「電報を初めて読んだとき」もしくは「漱石の瀕死を間近に見たとき」のどちらかに思えます。
わざわざ電報を持ち、汽車のシーンを選んだのには訳があって欲しいと思う純文学好きでした。
「或阿呆の一生」の中には他にも夏目”先生”についての描写が出てくるので、ぜひ読んでみてください。
こころを再読しての感想
10年ぶりくらいに夏目漱石の「こころ」を再読。
純文学を読むようになって、あの作家やこの作家も読んだものの「やっぱりあなたよね」のしっくり感が半端じゃありません。
難解な表現が少なく、「こんなに面白いのに、こんなに分かりやすい」のにも感動しました。
また、それなりに人生経験を積むと「Kや先生が死を選ぶ理由」の見方が変化するのも面白いところ。
確かに先生の理由にはKが自殺してしまったことが大きな影となっていますが、やはり信頼していた親戚から裏切られて元来孤独であったというのも決定的な要因に思えます。
また、「私」と出会わなかったら、「先生」はどうしていたのでしょうか。過去を振り返る機会もなく、罪悪感を持ち続けたまま生きたのか、またそれも辛いもの。
改めて純文学の面白さ・物語の必要性を実感できる1冊でした、夏目漱石には感謝しかありません、まじで。
再読の1冊としてもおすすめの作品です。
▼再読のメリットや効果についてまとめた記事は、こちら。
まとめ
夏目漱石の「こころ」について、簡単なあらすじや物語の終わり方を紹介しました。
「こころ(こゝろ)」は1914年に朝日新聞に「心 先生の遺書」として掲載された作品で、新潮文庫でも700万部以上を売り上げているベストセラーです。
文庫本ベースで300ページ程度で、かつ文章に難解な表現も少ないため、純文学初心者にもおすすめな作品。
今回紹介した内容を参考にしながら、ぜひ夏目漱石の「こころ」を読んでみてください。
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