「太宰治の人間失格のあらすじを知りたい」とお考えの方も多いでしょう。

再読するまで、ただのダメ男の話だと思っていた…ごめんなさいだよ太宰。
結論、太宰治の「人間失格」とは、人間の生活や営みが理解できず、社会に適合できない大庭葉蔵が酒・タバコ・自殺未遂・薬などを通じて堕落し、破滅していく様を描いた作品です。
そこで今回は、太宰治「人間失格」について簡単なあらすじと詳しいあらすじの両方を解説します。
太宰治「人間失格」の名言やあわせて読みたい本も紹介するので、参考にしてください。
- 太宰治「人間失格」のあらすじを、簡単に200字で説明します。
- はしがき・第一〜三の手記・あとがきの章ごとに、太宰治「人間失格」のあらすじを詳しく解説します。
- 太宰治「人間失格」の名言を紹介するので、作品の魅力に迫っていきましょう。
太宰治「人間失格」のあらすじを簡単に説明【200字】

太宰治「人間失格」では、人間の生活や営みが根本的に理解できず、社会に適合できない大庭葉蔵が、酒・タバコ・自殺未遂・不倫・薬などを通して堕落し、破滅していく様が描かれています。
太宰治の「人間失格」のあらすじを簡単に200字程度で説明すると、以下のとおりです。
洋蔵は幼少期〜中学校まで他人とコミュニケーションを取るために「道化」を演じることを覚え、東京の高等学校へ進学するとともに画塾で堀木に出会い一緒に堕落していく。カフェの女給との自殺未遂後に、内縁の妻を迎えるが、妻の浮気現場を目撃して酒びたりとなる。ある日喀血してモルヒネに頼るようになり、再度自殺を決めるものの精神病院送りにされたことで、自分は狂人、人間失格であると告白する。長兄が葉蔵を引き取り、田舎で静養することとなる。(211字)
上記は、ざっくりしたあらすじなので、次の章以降で解説する「詳しいあらすじ」で内容をチェックしましょう。
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太宰治「人間失格」の詳しいあらすじ

太宰治「人間失格」の詳しいあらすじを、以下の章ごとに説明します。
- はしがき
- 第一の手記
- 第二の手記
- 第三の手記
- あとがき
それぞれの内容を押さえて、理解を深めましょう。
はしがき|3枚の写真の印象
太宰治「人間失格」のはしがきは、主人公目線ではなく、第三者(私)の視線で以下のような内容が書かれています。
【はしがき】
- 3枚の写真の印象から話が始まる。
- 1枚は醜く笑った幼年時代の写真、2枚目は高等学校時代か大学時代の写真か判断できないが、美貌の学生である。しかし、人間の笑いとは違う。
- 3枚目は年齢が分からないが、白髪が混じっている。火鉢に両手をかざし、死んでいるような男が写っている、印象がない。私は今までに、このように不思議な男の顔を見た事が一度もない。
上記は第三者(私)が見た大庭葉蔵の写真の印象であり、次の「第一の手記」から、主人公の大庭葉蔵の物語が始まります。
第一の手記
太宰治「人間失格」の第一の手記のあらすじは、以下のとおりです。
【第一の手記】
- 葉蔵は、衣食住に困らない裕福な家の末っ子として生まれた
- 恥の多い人生を送ってきた、人間の生活が分からない、人間の営みが分からないという葉蔵の告白がある(空腹感で飯を食ったことがないなど)
- 自分は他人と会話すらできない、そこで編み出したのが「道化」だった
- 人間が鬼のように怒る顔にワニよりも怖いものを感じていた。その本性を持つことが人間の資格だと思えば自分に絶望した
- 休んでも試験を受ければクラスの誰よりも成績がよく、いわゆる「できる」ことで尊敬された。学校では周囲に尊敬すらされていた。道化によって人をだますことがバレてどのような仕打ちを受けるのかと怯えていた
- 道化のサービスによって学校では「お茶目」として扱われていた
- 自分には人間の欺き合っているのに、清く明るく生きているという自信が難解だった
第二の手記
太宰治「人間失格」の第二の手記のあらすじは、以下のとおりです。
【第二の手記】
- 東北のある中学校に入学し、遠い親戚の家に下宿した
- 引き続き道化を演じていると、竹一という白痴に似た生徒から後ろから「ワザ。ワザ」と言われ、道化を見破られた。葉蔵は竹一を手なづけるべく、ありとあらゆる場面で優しく接する
- 竹一は「きっと、お前は女に惚れられるよ」という予言を残す。下宿先の娘に好かれたなどのエピソードがある
- 竹一が「お化けの絵だよ」といってゴッホの自画像の口絵を見せた、自分の落ち着く道が決定したような気がした。自分もお化けの絵を描くと言って絵を描き始め、竹一が「お前は偉い絵描きになる」と言う
- 東京の高等学校へ進学。美術学校に行きたかったが、口答えできない自分は高等学校へ進学する。画塾にも通うなかで、堀木正雄に会い、酒・タバコ・淫売婦・左翼思想を知る
- 最初は堀木に財布を預けて遊んでいた。淫売婦によって女の修行をして女達者な雰囲気になっていた。左翼グループにも出入りしていたが、思想に共感したのではなく「日陰者」であるところに共感したいた
- 父親が東京に用がなくなると、住んでいた別荘を引き払って、葉蔵は古い下宿へ移った。小遣いではやりくりできずにたちまち金に困り、自分には生活能力がなかった
- カフェの女給だったツネ子と鎌倉の海に飛び込んで自殺をはかるが、自分のみ生き残る。自殺幇助の罪で検事の取り調べ中に大袈裟に咳をすると検事から「本当かい?」と物静かに尋ねられ、それまで刑事をだましていたのが大失敗したと感じる。事件については執行猶予となる
第三の手記
太宰治「人間失格」の第三の手記のあらすじは、以下のとおりです。
【第三の手記】
- ヒラメの家に引き取られる。ヒラメとは書画骨董商の渋田という男で、ヒラメに似ていたので父と自分はヒラメと呼んでいた。父の太鼓持ちのような役割だった
- ヒラメに今後どうするのか?とだずねられて画家になるなどと答えて、一晩しっかり考えなさいと言われているなか、家出して堀木の家に行く。堀木に迷惑がられるが、そこに来た女記者・シヅ子の家に転がり込み、ヒモ生活を送る
- シヅ子の元を自ら去り、京橋のスタンド・バアのマダムのとこりに泊まり込むようになる。バアの向かいのたばこ屋のヨシ子(17〜18歳)と知り合い結婚することになる(内縁の妻)
- ヨシ子とアパートに住み始め、酒をやめて職業である漫画に精を出したころ、堀木と再びつきあうようになる。堀木とアパートの屋上で飲んでいると、堀木が下の階へ来いというので一緒に行くと、ヨシ子と自分に漫画を描かせている商人が浮気している現場を見てしまう
- アルコールばかり飲むようになる。ある日、泥酔して帰宅するとジアールを発見して、全部一気に飲む。目を覚ますと、枕元にヒラメがおり、女のいないところに行きたい、ヨシ子と別れたいという
- 東京に大雪が降った夜に、銀座裏を歩いていると喀血した。近くの薬屋に入り、松葉杖をついた未亡人の奥さんと出会うが、そのまま薬屋を出る。次の日の夜に例の喀血が不安になり、薬屋に行って奥さんに体調について相談する。奥さんから薬とモルヒネの注射をもらう
- モルヒネを打つと不安や焦燥が取り除かれるので、1日に1本が4本になっていた。奥さんと関係を持ち、売ってもらう。死ななければならないと思いながらも、自宅と薬屋を行き来していた
- 最後の手段だと思い、父宛に一切を告白する手紙を送る。返信がなく、今日自殺しようと思う日にヒラメと堀木がやってきて、葉蔵は車に乗せられて病院に入院させられた。自分は狂人であり、人間失格であると告白する
- 長兄が葉蔵を引き取りに訪れ、田舎で静養してくれと言われ、従って東京を離れる。父が死んだことを知り、張り合いがなくなり、苦悩さえしなくなった。今の自分には幸不幸がなく、一才が過ぎていく
- 葉蔵は27歳になるが、白髪が増えて40以上に見られるという告白で締め括られる
大庭葉蔵の手記はここで終了し、あとがきは第三者(私)の視点で描かれます。
あとがき
太宰治「人間失格」のあとがきは、はしがきと同様に主人公目線ではなく、第三者(私)の視線で以下の内容が書かれています。
- この手記を綴った狂人を作者は知らず、スタンド・バアのマダムから小説の材料になるかもしれないと3冊のノートと3枚の写真をもらう
- 作者はノートの内容が事実の場合は、自分も脳病院に連れていきたくなったかもしれないという
- マダムは葉蔵が生きているか分からない、わたしたちが知っている葉蔵は神様みたいにいい子だったと話す
上記の章で太宰治「人間失格」は終了し、読者はなんともいえない気持ちで読み終わります。
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太宰治「人間失格」の基本情報・レビュー

太宰治「人間失格」の基本情報は、以下のとおりです。
項目 | 内容 |
---|---|
作者/作品名 | 太宰治/人間失格 |
初出 | 1948年 |
ページ数 | 192ページ(新潮文庫) |
面白さ | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
読みやすさ | ★ ★ ★ ★ ★ |
忍耐度 | ★ ★ ☆ ☆ ☆ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
見どころ | ・200ページ以内で比較的短期間で読める ・「人間失格」の意味するところ ・弱くて許されるのは太宰だけ |
太宰治「人間失格」が純文学でも読みやすい部類に入るのは、「200ページ以内というページ数の少なさ」と「比較的表現が親しみやすい」ところにあります。
今回、奥野健男氏の「太宰治論」を読んだことで「人間失格」を再読しましたが、そう時間はかかりませんでした(1日10ページでも1ヶ月以内に読み終われる)。
太宰治の「人間失格」を改めて読むと、”「人間失格」の意味するところ”を非常に考えさせられます。
物語上は精神病院に入れられて「完全に人間失格」としていますが、より広義にとらえると「人間の生活や営みが分からない不適合な自分=人間失格」であるようにも思えました。

社会不適合さは他人ごととは思えず、「いや私も十分に人間失格…」と非常に感慨深かった。
また、やはり弱くて許されるのは太宰治の専売特許のようなもので、内容を深く考えずともニヤニヤ読めるのも醍醐味です。

再読は角川文庫版で、檀一雄の解説から太宰治の人となりが垣間見えたのが良かった。
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太宰治「人間失格」の名言

太宰治「人間失格」の名言としては、以下の第一の手記の冒頭部分が有名です。
恥の多い生涯を送って来ました。
太宰治「人間失格」
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。
なお、上記は有名な書き出しとして扱われるケースがありますが、作品の冒頭は3枚の写真から始まり、あくまでも第一の手記の冒頭です。
また、主人公の大庭葉蔵が人間について理解できないという箇所では、以下のような表現もあります。
自分には、禍いのかたまりが十個あって、その中の一個でも、隣人が背負ったら、その一個だけでも充分に隣人の生命取りになるのではあるまいかと、思った事さえありました。
太宰治「人間失格」
つまり、わからないのです。隣人の苦しみの性質、程度が、まるで見当つかないのです。プラクテカルな苦しみ、ただ、めしを食えたらそれで解決できる苦しみ、しかし、それこそ最も強い痛苦で、自分の例の十個の禍いなど、吹っ飛んでしまう程の、凄惨な阿鼻地獄なのかもしれない
上記の文章を読んだとき、「人間の生活が見当つかないというのは…がちんこかもしれない」と息を呑みました。
加えて、大庭葉蔵が脳病院(精神科病院の旧称)に入れられる際の以下の表現もよく知られています。
いまに、ここから出ても、自分はやっぱり狂人、いや、廃人という刻印を額に打たれる事でしょう。
太宰治「人間失格」
人間、失格。
もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
太宰治「人間失格」の表現にもっと触れたいとお考えの場合は、ぜひ読んで実感してみてください。
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太宰治「人間失格」とあわせて読みたい本

太宰治「人間失格」とあわせて読みたい本は、以下のとおりです。
- 太宰治「HUMAN LOST」
- 太宰治「道化の華」
- 奥野健男「太宰治論」
それぞれの本の内容について紹介します。
太宰治「HUMAN LOST」
太宰治「HUMAN LOST」は1937年に発表された作品で、太宰治がパビナール中毒をきっかけに精神病院送りとなっており、入院生活時の心情がつづられています。
「HUMAN LOST」は日本語にすると「人間失格」であり、その体験が「人間失格」の作品につながっています。
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太宰治「道化の華」
太宰治「道化の華」は1935年に発表された作品で、「人間失格」の主人公と同じ名前の大庭葉蔵が登場します。
太宰自身が江ノ島で心中自殺を図った事件を題材としており、「人間失格」では第二の手記におけるツネ子と鎌倉の海への飛び込みにオーバーラップします。
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奥野健男「太宰治論」
新潮文庫の太宰治作品の解説でお馴染みの奥野健男による「太宰治論」は、太宰治の生涯・作品・文章などについて書かれた評論です。
太宰治の一生を紐解きながら作品について学べるので、「太宰治について理解を深めたい」とお考えの場合は必携の一冊です。
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太宰治「人間失格」の映画
太宰治「人間失格」の映画は、以下のとおりです。
作品名(公開年) | キャスト・スタッフ |
---|---|
人間失格(2010年) | 監督:荒戸源次郎 主演:生田斗真 |
人間失格 太宰治と3人の女たち(2019年) | 監督:蜷川実花 主演:小栗旬 |
「人間失格(2010年)」は太宰治の生誕100年を記念して製作された作品で、内容も「人間失格」に沿ったものとなっています。
一方で、「人間失格 太宰治と3人の女たち(2019年)」は、「人間失格」という作品の誕生秘話を太宰治を愛した3人の女性たちの目線から描いています。
それぞれの作品は配信で視聴できるケースもあるので、チェックしてみましょう。
太宰治「人間失格」に関するQ&A

最後に、太宰治「人間失格」に関するよくある質問を解説します。
太宰治「人間失格」は実話なの?
「人間失格」は太宰治の人生に起こった出来事が多く取り入れられていますが、太宰治の実生活をそのまま描いた作品ではありません。
単純に考えても、大庭葉蔵と太宰治の職業、自殺未遂の回数(太宰治は4回の未遂がある)、パビナールやモルヒネの中毒になるタイミングなど、さまざまな点に違いがあります。
「人間失格」は太宰治の生涯最後の作品?
「人間失格」は、太宰治の生涯最後の作品ではありません。太宰治の生涯最後の作品は、「人間失格」の次に執筆した1948年発表の「グッド・バイ」です。
ただし、「グッド・バイ」は未完のままであり、生涯最後に完結させた作品は「人間失格」となります。
まとめ

今回は太宰治「人間失格」について、「200字の簡単なあらすじ」と「章ごとの詳しいあらすじ」を解説しました。
太宰治「人間失格」は文庫本で200ページ以内と短く、純文学初心者でも読みやすい作品なので、未読という方はぜひ挑戦してみてください。
今回の記事を、読書ライフを楽しむ参考にしてください。
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