文庫本の上がガタガタしているのはなぜ?天アンカットを採用している理由や魅力を徹底解説!

文庫本の上がガタガタしているのはなぜ?天アンカットを採用している理由や魅力を徹底解説! 文庫本の世界

「文庫本の上がガタガタしているのはなぜ?」「文庫本のガタガタが気になる」と思う方も多いでしょう。

製本の失敗…?それとも文庫本が安いから予算的にキレイに揃えられない?

結論、文庫本の上がガタガタしているのは、雰囲気を出すためにわざと不揃いにしてあり、失敗や間違いではありません。

文庫本の製本について理解を深めておけば、レーベル選びの際にも役立つこと間違いなし。

そこで今回は、文庫本の上がガタガタしているのはなぜ?をテーマに理由や利点を解説していきます。

天アンカットを採用しているレーベルについても紹介するので、参考にしてください。

文庫本の上がガタガタしているのはなぜ?

文庫本の上がガタガタしているのはなぜ?

文庫本の上がガタガタしているのは、本の上部(天)を断裁しない形で製本する「天アンカット」と呼ばれる製本方法を採用しているからです。

意外かもしれませんが、不揃いにする天アンカットは製本する際に紙の折り方・揃え方に工夫が必要で、コストや手間がかかります。

では、なぜ出版社は天アンカットにするのか?

上がガタガタしている「天アンカット」の製本方法を文庫本が採用している理由は、以下の通りとなります。

文庫本が天アンカットを採用している理由
  • 理由①フランス装に似たおしゃれな雰囲気を出すため
  • 理由②古来の製本方法へのリスペクトがあるため
  • 理由③スピン(しおり)を取り付けるため

「ガタガタについて詳しく知りたい!」という方は、チェックしてみてください。

理由①フランス装に似たおしゃれな雰囲気を出すため

文庫本の上がガタガタしている天アンカットを採用している岩波書店によると、採用の理由は「フランス装に似たおしゃれな雰囲気を出すため」としています。

本来、「フランス装」とは本体を少し大きめの用紙で包み、内側に向かって折り返して表紙にする製本方法を意味し、20世紀中頃まで主にフランスで利用されていました。

ただし、日本で「フランス装」と呼ぶ場合には「アンカット本」のことを指すのが一般的です。

アンカット本については「理由②古来の製本方法へのリスペクトがあるため」で後述しますが、古くからある製本方法に見た目を近づけることでアンティーク感やビンテージ感の雰囲気を醸し出せます。

参考元:武蔵野美術大学 美術館・図書館|フランス装の楽しみ
東海ミシン製本工業|仮フランス装

理由②古来の製本方法へのリスペクトがあるため

理由②古来の製本方法へのリスペクトがあるため

文庫本が天アンカットにしている理由の2つ目は、「古来の製本方法へのリスペクトがあるため」です。

小口を切り落として整えた状態で製本されるようになったのは17世紀以降とされており、本はもともとは小口を裁断しないアンカットのまま販売されていました。

つまり、各ページが袋とじのままで本が販売されており、読者自身がペーパーナイフで切りながら読み進めるスタイルです。

ペーパーナイフで切った断面は自然とガタガタになっていくため、小口が不揃いな本はある意味で本来の姿だといえるでしょう。

▼「そもそも文庫本とは何か?」「裏表紙のあらすじは誰が書いている?」などの疑問をまとめた記事は、こちら。

理由③スピン(しおり)を取り付けるため

味のある雰囲気にできるという理由に加えて、主に新潮文庫では「スピン(しおり)を取り付けるため」に天アンカットを採用しています。

スピンとは本の天と背の間部分についている紐状のしおりのことで、スピンを差し込むために裁断を行っていません。

スピンにしても天アンカットにしてもコストや手間がかかりますが、読者の利便性やデザイン性を追求する出版社のこだわりだといえます。

おかげさまで、新潮文庫多めの我が家には「しおり」がほとんどありません!

▼文庫本のスピンや自作スピンの作り方についてまとめた記事は、こちら。

参考元:ほぼ日刊イトイ新聞|新潮文庫のささやかな秘密。

文庫本の天アンカットは嫌い?利点を解説

文庫本の天アンカットは嫌い?利点を解説

文庫本の天アンカットの利点は、以下の通りです。

文庫本の天アンカットの利点
  • 本の根源的な姿を感じられる
  • 味がある
  • おしゃれに見える

天アンカットは袋とじをペーパーナイフで切りながら読んでいた古来の形式を模しているため、本の根源的な姿を感じられます。

また、味があり、おしゃれに見える本で、日々読書ができるのもメリットです。

ただし、人の好みはさまざまで、「文庫本の上がガタガタしているのが嫌い」という方もいるでしょう。

同名の小説が他の出版社で発行されている場合は、天・小口・地の部分を裁断した「三方仕上げ」を採用している出版社の文庫本を購入するのがおすすめです。

また、ハードカバーで購入する方法もあります。

▼文庫本についてまとめた他の記事は、こちら。

文庫本の天アンカットを採用しているレーベル

文庫本の天アンカットを採用しているレーベル

文庫本の天アンカットを採用しているレーベルは、以下の通りです。

文庫本の天アンカットを採用しているレーベル
  • 新潮文庫
  • 岩波文庫
  • ハヤカワ文庫
  • 中公文庫
  • かつての角川文庫

実際の写真を使って紹介するので、「各社どんな感じか気になる」といった場合には、参考にしてみてください。

新潮文庫

新潮文庫
撮影:筆者 純文学×天アンカットの趣がある雰囲気がたまらない新潮。

新潮文庫は、株式会社新潮社による文庫レーベルで、1914年創刊の老舗レーベルの1つです。

新潮文庫は紐状のしおり「スピン」を取り付けているために、天アンカットを採用しているとされています。

国内外問わず数多くの純文学作品を文庫化しているのが特徴です。

また、夏季には「新潮文庫の100冊」のフェアを1976年から実施。多くの書店の店頭で取り扱われています。

岩波文庫

岩波文庫
撮影:筆者 天アンカットも含めてクラシカル感が漂う岩波。

岩波文庫は株式会社岩波書店による文庫レーベルで、1927年に創刊。

フランス装のおしゃれな雰囲気を出すため、文庫本に天アンカットの製本方法を採用しています。

岩波文庫は文学や学術書を数多く出版しているのが特徴です。カバーの背表紙下の色には青・黄・緑・白・赤の種類があり、色よって分類分けされています。

ハヤカワ文庫

ハヤカワ文庫
撮影:筆者 ミステリーや海外作品で非常にお世話になるハヤカワ文庫。

ハヤカワ文庫は株式会社早川書房の文庫レーベルで、1970年に創刊しました。

「ハヤカワ文庫SF」や「ハヤカワepi文庫」など、複数のサブレーベルに分かれており、「クリスティー文庫」などの作者別のレーベルを持っているのも特徴です。

また、早川書房はさらにクラシカルなペーパーバックのミステリ専門の叢書「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」も展開しています。

▼ペーパーバックについてまとめた記事は、こちら。

中公文庫

中公文庫
撮影:筆者 

中公文庫は株式会社中央公論新社の文庫レーベルで、1973年に創刊。

最初に出版されたのは、谷崎潤一郎訳「源氏物語(巻一)」を含めて10作品で、古典からフィクションまで幅広いジャンルがラインナップされました。

2021年時には、出版タイトルが7,000点を超えています。

かつての角川文庫

かつての角川文庫
撮影:筆者 手前も奥も角川文庫ですが、天アンカットは手前のみ。

現在の角川文庫は天アンカットではありませんが、少なくとも1993年までは天アンカットの製本方法を採用していました。

上記の写真はどちらも角川文庫で、奥は2008年(平成20年)発行で手前は1993年(平成5年)発行です。

中古本は文字の級数やジャケットのデザインの違いはもちろん、天アンカットの有無も確認してみると面白いでしょう。

▼中古本についてまとめた記事は、こちら。

まとめ

読書家_まとめ

文庫本の上がガタガタしている理由は、本の上部(天)を断裁しない形で製本する「天アンカット」を採用しているためです。

製本上のミスなどではなく、以下の理由からわざと不揃いにしています。

  • 理由①フランス装に似たおしゃれな雰囲気を出すため
  • 理由②古来の製本方法へのリスペクトがあるため
  • 理由③スピン(しおり)を取り付けるため

現在では、新潮文庫・岩波文庫・ハヤカワ文庫などが天アンカットの文庫本を発行しています。

今回の記事を、読書ライフを楽しむ参考にしてください。

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