純文学と大衆文学の違いとは?芥川賞と直木賞の相違点についても解説

純文学と大衆文学の違いとは?芥川賞と直木賞の相違点についても解説 純文学のすゝめ

読書をするなかで、「純文学と大衆文学の違いとは?」と一度は気になるもの。

かくいう私も一時期までは文学は純文学の省略だと勘違いしていました、恥ずかしい…!

結論、「純文学」は芸術性を重視した小説、「大衆文学」は娯楽性を主眼にした小説のことです。

また、「文学」とした場合には言語による芸術作品全般のことを指し、違いを知っていないと使い分けるのが難しいといえます。

そこで今回は、純文学と大衆文学の違いについて解説します。芥川賞と直木賞の相違点も解説するので、ぜひ参考にしてください。

POINT
  • 純文学は芸術性を重視、大衆文学は娯楽性に主眼を置いており、定義に違いがあります。
  • 大衆文学との線引きはどこか、見分け方を解説するので、チェックしましょう。
  • 芥川賞と直木賞ではジャンルや対象作品に違いがあり、純文学と大衆文学に深い関わり合いがあります。
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ひろぺす

ブラック企業在籍中に情緒がぶっ壊れ、文学と映画が生きる糧になって早10年以上。

◎読書はほぼすべて純文学&海外文学
∟夏目漱石(文庫化作品を読破)
∟大西巨人(「神聖喜劇」を読破)
∟ドストエフスキー(5大長編を読破)etc.

◎映画&ドラマ(年200本前後)
∟サスペンス・災害・アサシン系
∟根っからの吹き替え派

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純文学と大衆文学の違い【定義】

純文学は「芸術性を重視している」、大衆文学は「娯楽性に主眼を置いている」という定義の違いがあります。また、純文学と大衆文学のそのほかの違いは、以下のとおりです。

項目純文学大衆文学
定義芸術性を重視している娯楽性に主眼を置いている
目線作者の純粋な芸術意識人々を楽しませる
結末ハッピーエンドは望めない(特に古典)
結論がない可能性がある
比較的しっかり結末が描かれる

対局に位置するように見える「純文学」と「大衆文学」ですが、「両立する」「区別する必要がない」などの意見もあります。

大衆文学には、時代小説・推理小説・SF小説などさまざまなジャンルが含まれているのが特徴です。

大衆文学はヒット映画の原作になるケースが多く、認知度が高い作品も多数あります。

純文学の「芸術性を重視している」という部分に、ピンとこない方もいるでしょう。例として、夏目漱石「明暗」の一部を紹介します。

靄(もや)とも夜の色とも片付かないものの中にぼんやり描き出された町の様はまるで寂寞たる夢であった。自分の四辺にちらちらする弱い電燈の光と、その光の届かない先に横たわる大きな闇の姿を見較べた時の津田には慥かに夢という感じが起った。

夏目漱石「明暗」

読んだときは「景色をこんなに静かな夢に例える人なんているのか…」と震えたもの。漱石は植物や空の表現も魅力ですね。

また、結末にも大きな違いがあります。純文学は結末らしい結末がなかったり、バッドエンドを迎えたりするのは、時代にもよりますが割と当たり前です。

「バッドエンド…?」と震える方もいるでしょう。しかし、暗黒展開も純文学の大きな魅力の1つです。

【関連記事】バッドエンドの種類にはどんなものがある?【一覧で紹介】意味や魅力についても解説

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単純に「文学」と括った場合

「文学」とは言語による芸術作品全般のことを意味しており、以下のジャンルが含まれます。

文学に含まれるジャンル
  • 口承文学
  • 詩(定型詩や自由詩など)
  • 散文(小説や脚本など)

文学をさらに詳細に分類すると、以下のとおりです。純文学や大衆文学は小説の分類に当てはまることがわかります。

単純に「文学」と括った場合の分類
作成:筆者

「文学」と言うと幅が広いため、しっかりと伝えたい場合には「純文学」や「脚本」と言い表したほうが誤解がありません。

戯曲もエッセイもルポルタージュも詩も読むから「文学が好き」でも間違いがない気がしてきました。

代表的な作家の例

純文学と大衆文学の代表的な作家の例を、チェックしましょう。

種類
純文学・森鴎外
・夏目漱石
・志賀直也
・芥川龍之介
・太宰治
・川端康成
大衆文学・吉川英治
・山本周五郎
・直木三十五
・江戸川乱歩
・宮部みゆき
・東野圭吾

「純文学や大衆文学の代表作を読んでみたい」とお考えの場合は、上記の作家の作品を読んでみるのがおすすめ◎。

たとえば、森鴎外なら「高瀬舟」、吉川英治なら「三国志」が主要な作品として挙げられます。

【関連記事】三国志とキングダムはどっちが先?項羽と劉邦はどのあたり?疑問を一挙解決

どっちを読むべきか

純文学と大衆文学のどちらを読むべきかは、読書の目的や個人の価値観によって異なります。

一般的には、以下のような目的を持っている場合は、純文学と大衆文学のそれぞれがおすすめです。

種類おすすめな場合
純文学・美しい文章に触れてみたい
・「名作」に挑戦したみたい
大衆文学・エンタメ性の高い作品でワクワクしたい
・読みやすく結末のある作品を読みたい

「純文学を読んでみたい」という方は、次の章で紹介する「純文学の初心者向けおすすめ作品」を参考にしてください。

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純文学の初心者向けおすすめ作品

結論、純文学はまず国語や現代文で習った作品を読み直すところから始めるのがおすすめです。

一度は読んだことがある作品であれば、比較的取り組みやすく、最後まで読める可能性が高まります。教科書や年代によっても異なりますが、よく扱われる作品は以下のとおりです。

国語や現代文でよく扱われる作品
  • こころ(夏目漱石)
  • 山月記(中島敦)
  • 舞姫(森鴎外)
  • 羅生門(芥川龍之介)

参考元:奈良県立図書情報館|「教科書に載っている本~中学校の国語の教科書~」図書リスト

「羅生門」などは短編小説で、時間をかけずに読めるのがポイント。また、短編集を購入する場合には、収録されている他の作品にも触れられます。

また、最初から海外文学に挑戦するのはおすすめできません。向き不向きもありますが、訳が分かりづらかったり、抽象的な概念が出てきたりすると読み続けるのが難しい場合があります。

私が何度ヘッセの「車輪の下」を諦めたことか…!

私も最初は、夏目漱石「こころ」や太宰治「人間失格」あたりからスタートしました。読み始めるとどんどん知的欲求が高まっていくので、自然と難しい本にも挑戦するようになるでしょう。

【関連記事】純文学初心者向けに読みやすい古典作品【厳選】選び方から楽しみ方まで徹底解説

純文学初心者におすすめの作品が気になる方は、こちらをチェック!

純文学と大衆文学の線引きはどこか

純文学と大衆文学の線引きはどこか

純文学は「芸術性を重視している」、大衆文学は「娯楽性に主眼を置いている」という明確な違いはあるものの、その境界線や線引きは非常に曖昧です。

ドストエフスキーやバルザックのように文章の芸術性が非常に高いが、エンタメ性に富んでいる作家もいます。

場面展開に乏しく、ただの芸術性のみしかない文章であったなら、数百年も読み継がれないでしょう。

逆に、エンタメ性がありながらも、芸術性を併せ持つ作家も。

個人的にはロス・マクドナルドは純文学を楽しむように読める作家の1人です。例えば、ロス・マクドナルドの「さむけ」には、以下のような文章があります。

青年はうなずいたが、ほとんどわたしの姿は目に入らないようだった。依然として自分の内側を見つめる目つきである。この夜までは夢想だにしなかった深淵をのぞきこむ目つき。

ロス・マクドナルド「さむけ」

随所に気の利いた表現が散りばめられており、推理小説で片付けるのはもったいないといつも思っています。

また、「芸術性」の定義も人それぞれで共通項を見出すのは難しいところです。

【関連記事】純文学の作家&有名作品一覧【一度は読んでおきたい近代文学】美しい文章の例や選び方も紹介

見分け方

前の章で解説したように、純文学と大衆文学の境界線や線引きは非常に曖昧なので、見分ける基準も個人の価値観に委ねられる部分が多くあります。

とくに「中間小説」と呼ばれる純文学と大衆文学の中間的な作品は、分類がケースバイケースです。たとえば、中間小説には以下のような作家がいます。

中間小説の作家
  • 井上靖
  • 松本清張
  • 舟橋聖一

また、芥川賞や直木賞など、文学賞の違いで純文学と大衆文学を見分ける方法もあります。芥川賞と直木賞の違いを次の章で解説するので、チェックしていきましょう。

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芥川賞と直木賞の違い

芥川賞と直木賞の違い

芥川賞と直木賞ではジャンルや対象作品に違いがあり、具体的には以下のとおりです。

項目芥川賞直木賞
ジャンル純文学エンターテインメント作品
正式名称芥川龍之介賞直木三十五賞
作家のキャリア新進作家新進・中堅作家
対象雑誌に掲載された中・短編作品単行本(長編または短編集)
掲載誌文藝春秋オール読物
参考元:公益財団法人日本文学振興会|よくあるご質問

上記のように、芥川賞は純文学、直木賞はエンターテイメント作品つまり大衆文学を対象としています。

芥川賞と直木賞にダブルノミネートされるケースは稀にありますが、ダブル受賞した例は過去にありません。

「受賞作なし」となる場合もあり、必ずしも受賞者が出るとは限らないのもポイントです。芥川賞・直木賞は対象となるジャンルや作家のキャリアが異なるため、どちらが格上ということもありません。

【関連記事】自分に合った本の選び方!コツを押さえて夢中になれる1冊を見つけよう

芥川賞と直木賞の受賞者一覧【直近20回】

直近10年20回分の芥川賞と直木賞の受賞者と作品一覧を、チェックしましょう。

回/年芥川賞・直木賞
172回
(2024年)
【芥川賞】
DTOPIA(安堂ホセ)
ゲーテはすべてを言った(鈴木結生)

【直木賞】
藍を継ぐ海(伊与原新)
171回
(2024年)
【芥川賞】
サンショウウオの四十九日(朝比奈秋)
バリ山行(松永K三蔵)

【直木賞】
ツミデミック(一穂ミチ)
170回
(2023年)
【芥川賞】
東京都同情塔(九段理江)

【直木賞】
ともぐい(河﨑秋子)
八月の御所グラウンド(万城目学)
169回
(2023年)
【芥川賞】
ハンチバック (市川沙央)

【直木賞】
極楽征夷大将軍(垣根涼介)
木挽町のあだ討ち(永井紗耶子)
168回
(2022年)
【芥川賞】
この世の喜びよ(井戸川射子)
荒地の家族(佐藤厚志)

【直木賞】
地図と拳(小川哲)
しろがねの葉(千早茜)
167回
(2022年)
【芥川賞】
おいしいごはんが食べられますように(高瀬隼子)

【直木賞】
夜に星を放つ(窪美澄)
166回
(2021年)
【芥川賞】
ブラックボックス(砂川文次)

【直木賞】
塞王の楯(今村翔吾)
黒牢城(米澤穂信)
165回
(2021年)
【芥川賞】
貝に続く場所にて(石沢麻依)
彼岸花が咲く島(李琴峰)

【直木賞】
テスカトリポカ(佐藤究)
星落ちて、なお(澤田瞳子)
164回
(2020年)
【芥川賞】
推し、燃ゆ(宇佐見りん)

【直木賞】
心淋し川(西條奈加)
163回
(2020年)
【芥川賞】
首里の馬(高山羽根子)
破局(遠野遥)

【直木賞】
少年と犬(馳星周)
162回
(2019年)
【芥川賞】
背高泡立草(古川真人)

【直木賞】
熱源(川越宗一)
161回
(2019年)
【芥川賞】
むらさきのスカートの女(今村夏子)

【直木賞】
渦 妹背山婦女庭訓魂結び(大島真寿美)
160回
(2018年)
【芥川賞】
ニムロッド(上田岳弘)
1R1分34秒(町屋 良平)

【直木賞】
宝島(真藤順丈)
159回
(2018年)
【芥川賞】
送り火(高橋弘希)

【直木賞】
ファーストラヴ(島本理生)
158回
(2017年)
【芥川賞】
おらおらでひとりいぐも(若竹千佐子)
若竹千佐子(石井遊佳)

【直木賞】
銀河鉄道の父(門井慶喜)
157回
(2017年)
【芥川賞】
影裏(沼田真佑)

【直木賞】
月の満ち欠け(佐藤正午)
156回
(2016年)
【芥川賞】
しんせかい(山下澄人)

【直木賞】
蜜蜂と遠雷(恩田陸)
155回
(2016年)
【芥川賞】
コンビニ人間(村田沙耶香)

【直木賞】
海の見える理髪店(荻原浩)
154回
(2015年)
【芥川賞】
死んでいない者(滝口悠生)
異類婚姻譚(本谷有希子)

【直木賞】
つまをめとらば(青山文平)
153回
(2015年)
【芥川賞】
スクラップ・アンド・ビルド(羽田圭介)
火花(又吉直樹)

【直木賞】
流(東山彰良)

芥川賞と直木賞の受賞は毎年ニュースで大きく取り上げられるので、聞いたことのある作品や作家も多いのではないでしょうか。

たとえば、2015年受賞の又吉直樹「火花」や2016年受賞の村田沙耶香「コンビニ人間」のときは、大きな反響を呼びました。

最近の本も読まねば…!と思いつつも、ついつい古典ばかり読んでいる。

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純文学と大衆文学の違いに関するQ&A

純文学と大衆文学の違いに関するよくある質問

最後に、純文学と大衆文学の違いに関するよくある質問を解説するので、疑問を解消しましょう。

大衆文学とラノベの違いは?

ラノベこと「ライトノベル」とは、イラストや会話文を多用した若年・青年向けの娯楽小説のことです。

また、大衆文学とは娯楽性に主眼を置いた小説の総称であるため、ライトノベルは大衆文学の一種といえます。

【関連記事】ライトノベルとは簡単にいうと?意味や特徴を解説!小説との違いや映像作品も紹介

本屋大賞と芥川賞・直木賞とはどうちがう?

本屋大賞とは、書店員が「お客さまに薦めたい」と考える本に投票して決定する賞のことです。

一方で、芥川賞・直木賞は日本文学振興会が選考を実施し、芥川賞は純文学、直木賞はエンターテイメント作品を審査対象としています。

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まとめ

純文学と大衆文学の違いとは?まとめ

「純文学」は芸術性、「大衆文学」は娯楽性やエンターテイメント性を重視するという違いがあります。

純文学を対象とした賞が「芥川賞」で、大衆文学(エンターテイメント作品)を対象とした賞が「直木賞」です。純文学初心者の場合は、国語や現代文で習った以下の作品から取り組みましょう。

高校の現代文でよく扱われる作品
  • こころ(夏目漱石)
  • 山月記(中島敦)
  • 舞姫(森鴎外)
  • 羅生門(芥川龍之介)

今回の記事を、読書ライフを楽しむ参考にしてください。

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