読書をするなかで、「夏目漱石作品の読む順番は?」と疑問をお持ちの方も多いでしょう。

初めて読む作者は、どれから読むか悩ましい…。
結論、夏目漱石の作品を読む順番は純文学初心者は「こころ」、経験者は「三四郎」を含めた前期三部作から読むのがおすすめです。
読む順番は意外と大切。特に出会い方を間違えると、その作者の本を一生読まない可能性すらあるので、注意が必要です。
そこで今回は、夏目漱石作品の読む順番について初心者向けに解説します。夏目漱石の代表作や作品一覧についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
- 夏目漱石の作品を読む順番は、純文学初心者は「こころ」から、経験者は「三四郎」を含めた前期三部作からがおすすめ◎。
- 夏目漱石の作品について、「代表作」と「前期三部作・後期三部作」を紹介します。
- 夏目漱石の遺作である「明暗」について、解説します。
夏目漱石作品の読む順番は?

夏目漱石の作品を読む順番に正解はないものの、個人的な経験値から夏目漱石作品の読む順番について、以下の点を解説します。
- 純文学初心者向け【代表作の「こころ」から】
- 純文学経験者向け【前期三部作から】
- 発表順に読みたい方向け【作品年表あり】
- 読破後に理解を深めたい方向け【江藤淳「漱石とその時代」】
- 上から読むか?下から読むか?【体験談】
読む順番に正解はないので、自身に合うパターンを見つけましょう。
純文学初心者向け【代表作の「こころ」から】
純文学を読んだことのない方は、代表作の1つ「こころ」から読むのがおすすめ。「こころ」を1冊目におすすめする理由は、以下のとおりです。
- 高校の現代文で触れたことがある
- 場面展開が明確で読みやすい
- 面白さを実感しやすい
純文学の面白さを体感するには、まず「最後まで読む」ことが大切です。初めのうちは、習った作品や有名作品などの親しみやすい作品から取り組みましょう。

また、夏目漱石の作風は日記に近いところがあり、場面展開がありそうでない作品が多いため、作品を間違えると「つまんないじゃん」で終わる可能性も。
「こころ」は
「先生との出会い」「先生からの手紙」など場面が明確で、飽きずに読めます。
さらに、登場人物の最期のシーンなどがしっかり描かれている珍しい作品であり、比較的面白さを実感しやすいのも特徴です。

面白さを実感すると、他の漱石作品で「つまらない」と感じても面白くなると信じて最後まで読めるようになります。
つまり、
夏目漱石の作品を読むにあたり「こころ」を成功体験にするわけです。
発表順に読むと「我輩は猫である」から読むことになりますが、誰もが知っている「吾輩は」冒頭の文章は文庫本で約550ページの1行目。
その先が非常に長く読破するのに時間を要するため、個人的には最初に読む作品としてはおすすめできません。
「こころ」の後は、「三四郎」から始まる前期三部作に挑戦すると良いでしょう。その理由については、次の章で解説します。
【関連記事】夏目漱石のこころのあらすじを簡単に解説!印象に残る言葉や場面も紹介
\\「こころ」が気になる方は、こちらをチェック。//
純文学経験者向け【前期三部作から】
純文学経験者であれば、「こころ」を読破済みの方も多いでしょう。そのような場合には、「三四郎」を含む前期三部作から読むのがおすすめ◎。
夏目漱石の前期三部作
「三四郎」「それから」「門」の3つの作品を指す
経験者に前期三部作を推す理由は、以下のとおりです。
- 3作品がif設定で繋がっていて全て読む必要がある
- 面白くなるのに時間がかかる作品がある
- 純文学特有の救いのない展開が多い

前期三部作はどこから読んでも面白いと思いますが、if設定で話が繋がっているので「三四郎」→「それから」→「門」の順番で読みましょう。
「三四郎」の恋がもし将来的に思わぬ形で叶ったら?が「それから」、「それから」での願いがもし叶っていたら?が「門」です(ただし、登場人物は異なる)。
また、「それから」は最たるものですが、場面が大きな展開を迎えるのが後半なので、面白くなるのに時間が必要で、初心者だと諦めてしまうケースも。

「それから」は意外性があって途中から一気読みできるのですが、助走がいかんせん長い。
とくに「それから」と「門」については、純文学特有の救いのない展開があり、ある程度読んでいると面白さを実感しやすいでしょう。
前期三部作を読み終えたら、最後に読みたいタイトルを決めて、そのほかの興味ある作品を読んだり、ページ数で決めたりしましょう。詳しくは次の章を参考にしてください。
【関連記事】純文学の書き出しにはどんなものがある?押さえておきたい名作の冒頭部分を紹介
\\「前期三部作」が気になる方は、こちらをチェック。//
発表順に読みたい方向け【作品年表あり】
夏目漱石の作品を発表順に読みたい方向けに、作品年表を以下にまとめました。
作品名 | 年表 |
---|---|
吾輩は猫である | 1905〜1906年 |
倫敦塔・幻影の盾 | 1905年 |
坊っちゃん | 1906年 |
草枕 | 1906年 |
二百十日・野分 | 1906・1907年 |
虞美人草 | 1907年 |
坑夫 | 1908年 |
文鳥・夢十夜 | 1908年 |
三四郎 | 1908年 |
それから | 1909年 |
門 | 1910年 |
彼岸過迄 | 1912年 |
行人 | 1912年 |
こころ | 1914年 |
硝子戸の中 | 1915年 |
道草 | 1915年 |
明暗 | 1916年 |
作品順で読むのであれば、「我輩は猫である」から始まり、「倫敦塔・幻影の盾」「坊っちゃん」と続きます。

なお、「硝子戸の中」は物語ではなく随筆です。
【関連記事】純文学初心者向けに読みやすい古典作品【厳選】選び方から楽しみ方まで徹底解説
読破後に理解を深めたい方向け【江藤淳「漱石とその時代」】
夏目漱石の主要作品を読破したあとに「理解を深めたい」とお考えの場合は、江藤淳が執筆した夏目漱石の評伝「漱石とその時代」を読むのがおすすめ◎
評伝
評論を加えた伝記
漱石の作品や人物解説を読んでいると浮かんでくる以下のような疑問を解消してくれる、それが「漱石とその時代」です。
- どこまで行っても三角関係…どうした?
- 夫婦仲、大丈夫だった?
- 作品「道草」はどこまで本当?
- 正岡子規とはどんな仲だった?
- 漱石も作中の人物のようにぶらぶらしてた?

「あ〜!そうだったのね!」の連続です。本当に。
\\「漱石とその時代」が気になる方は、こちらをチェック。//
上から読むか?下から読むか?【体験談】

私が夏目漱石作品を読んだ順番は、以下のとおりでした。
- こころ
- 三四郎
- それから
- 門
- 草枕
- 坑夫
- 道草
- 行人
- 二百十日・野分
- 虞美人草
- 倫敦塔・幻影の盾
- 文鳥・夢十夜
- 彼岸過迄
- 坊っちゃん
- 硝子戸の中
- 我輩は猫である
- 明暗
私の読書は
「教科書に載ってたアレ、何だったっけ?」から出発している
ため、「こころ」からスタートしました。

最後は「明暗」にしようと思っていたものの、とくに発表順で読むことに興味がなかったので、毎回本屋であらすじを読んでから決めていました。
また、漱石の執筆期間は10年と短く(川端康成だと50年以上ある)、比較的作風に変化がないことから、どこから読んでもあまり変わりがないといえます。
「こころ」が面白いと思ったので、結局最後の「明暗」まで読めたようなものですが、夏目漱石の作品との出会いが良かったのはたまたまでした。
【関連記事】純文学の楽しみ方を徹底解説|気持ち悪いって本当?起承転結があるのかも紹介
夏目漱石作品の読破の感想

夏目漱石の主要作品を読破した感想は、
心の闇によく寄り添ってもらった
ということ。20代にブラック企業に勤めていた際に心が真っ黒でしたが、そのときによく夏目漱石を読み、以下のような点に共感の連続でした。
- 日常の問題がまったく解決しない
- 他人、夫婦ですら分かり合えない
- 主体性を発揮する主人公に限って不幸になる
また、美しく明晰で、読んで心が洗われる文章も見どころの1つです。
たとえば、「三四郎」のなかで、主人公・三四郎と美禰子が曇った空を見た場面の文章で、空の印象を以下のように話しています。
三四郎には、どういうわけもなかった。返事はせずに、またこう言った。
夏目漱石「三四郎」
「安心して夢を見ているような空模様だ」
空模様を「安心して夢を見ている」と形容できる夏目漱石に、文庫本を持つ手が震えました。

坂口安吾には「漱石の作品には人間関係ばかりで肉体がない」とディスられておりますが、漱石はそれがいいんです。
夏目漱石の代表作

夏目漱石の作品について、「代表作」と「前期三部作・後期三部作」を紹介します。有名作品から読みたい方は、参考にしてください。
代表作【知名度や発行部数】
夏目漱石の代表作は、以下のとおりです。
- 吾輩は猫である
- 草枕
- 坊っちゃん
- こころ
「我輩は猫である」はもちろん、「草枕」も冒頭部分の認知度が非常に高く、「智に働けば角が立つ。」がの一節は一度は耳にしたことがあるでしょう。

「坊っちゃん」や「こころ」は教科書に掲載されているケースが多く、やはり主要な作品の1つです。
また、新潮文庫の累計発行部部数で判断すると、以下の2タイトルが代表作といえます。
- 「こころ」 → 701万部
- 「坊っちゃん」 → 420万部
いずれも2014年時のデータなので、さらに部数が伸びていると考えられます。
当時3,000タイトル以上刊行されていた新潮文庫で累計発行部数が1番多い作品が「こころ」であり、冊数は186刷にもなります。
【関連記事】新潮文庫のプレミアムカバーとは?いつからいつまで販売しているかなども紹介
\\代表作が気になる方は、こちらをチェック。//
前期三部作・後期三部作【繋がりや順番】
夏目漱石の前期三部作と後期三部作は、以下のとおりです。
種類 | 作品名 |
---|---|
前期三部作 | 三四郎(1908年) それから(1909年) 門(1910年) |
後期三部作 | 彼岸過迄(1912年) 行人(1912年) こころ(1914年) |
「純文学経験者向け【前期三部作から】」の章で紹介したとおりに、前期三部作は物語がif設定の展開となっており、繋がりを顕著に感じます。

後期三部作は「エゴイズム」と「苦悩」がテーマになっているとされていますが、作品間での物語の繋がりは感じられません。
なお、「行人」では主人公が友人Hからの手紙を読む箇所があり、「こころ」のスタイルを確立するきっかけになったと考えられます。
前期・後期と分かれているものの年数的には連続しており、作風に大きな変化がないため、6作品続けて読んでもストレスはないでしょう。
【関連記事】純文学の作家&有名作品一覧【一度は読んでおきたい近代文学】美しい文章の例や選び方も紹介
夏目漱石の遺作

夏目漱石の遺作は、1916年に発表された「明暗」で未完に終わっています。「明暗」のあらすじは、以下のとおりです。
明暗
主人公の津田は夫婦仲があまり上手くいっておらず、かつての恋人・清子のことがずっと気になっている。清子が流産して湯治していることを知り、津田は清子が滞在している温泉街に赴き、清子と再会する。
未完で終わっていますが、他の作品でも結末がありそうでない展開が多いので、未完だからといってあまり気になりませんでした。
「明暗」は私心を捨てて自然に身を委ねる「則天去私」の境地を描くことを試みた作品とも言われていますが、一読者が読む味わいはさまざま。

私は、夏目漱石が描き続けてきた「人の孤独」や「他者と分かり合えない」という点が極まっていて感動しました。
たとえば、明暗には以下のようなくだりがあります。
実を云うと、僕には細君がないばかりじゃないんです。何にもないんです。親も友達もないんです。つまり、世の中がないんですね。もっと広く云えば人間がないんだとも云われるでしょうが
夏目漱石「明暗」
上記は小林と主人公の妻・お延との会話の一節です。私は最後に選んだ夏目漱石作品は「明暗」でしたが、「孤独もここまで来たのか(感嘆)」と思わず良い意味でため息をついてしまいました。

「明暗」はページ数が多いものの、比較的サクサク読める作品です。
\\遺作「明暗」が気になる方は、こちらをチェック。//
夏目漱石作品の読む順番に関するQ&A

最後に、夏目漱石作品の読む順番に関するよくある質問を解説するので、疑問を解消しましょう。
「こころ」は何日で読める?
夏目漱石の「こころ」は何日で読めるかは、読書のスピードによって異なります。
たとえば、夏目漱石の「こころ」は330ページ程度なので、1日10ページ読むと1ヶ月強で読み終われます。
「こころ」は何年生で習う?
一般的には、夏目漱石の「こころ」は高校2年生の現代文で習います。
高校生の現代文では、そのほかにも志賀直也「城の崎にて」、芥川龍之介「羅生門」、中島敦「山月記」などを学習するケースがあります。
まとめ

夏目漱石作品は純文学初心者であれば「こころ」から、経験者であれば「三四郎」を含む前期三部作から読むのがおすすめです。
また、前期三部作は「三四郎」「それから」「門」で、後期三部作は「彼岸過迄」「行人」「こころ」です。発表順に読みたい場合には「我輩は猫である」から取り組みましょう。
本記事を参考にしながら、読書ライフを満喫してください。
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