「純文学でバッドエンドを味わいたい!」「バッドエンドでワクワクぞわぞわしたい!」という方も多いでしょう。

なんだろう…このバッドエンドへのワクワクは!
結論、純文学には清々しく打ちのめしてくれるバッドエンド作品が数多くあり、たとえば夏目漱石「それから」やドストエフスキー「悪霊」などの作品です。
そこで今回は、純文学のバッドエンドおすすめ作品を国内から海外まで幅広く紹介します。純文学的バッドエンドの魅力やバッドエンドの定義についても解説するので、参考にしてください。
- 純文学おすすめバッドエンド作品として、夏目漱石「それから」やジョージ・オーウェル「1984年」など8選を紹介します。
- 純文学的バッドエンドの魅力や定義を解説するので、理解を深めましょう。
純文学おすすめバッドエンド作品8選

純文学おすすめバッドエンド作品として、以下の8つを紹介します。
- 夏目漱石「それから」
- 夏目漱石「門」
- 有島武郎「或る女」
- 芥川龍之介「歯車」
- 大江健三郎「芽むしり仔撃ち」
- ドストエフスキー「悪霊」
- ジョージ・オーウェル「1984年」
- バルザック「ゴリオ爺さん」
それぞれの作品について、バッドエンド度やおすすめポイントなどの概要をまとめているので、参考にしてください。
※ストーリーの細かな過程を省いて結末を記載しているため、「物語を知ってから結末を知りたい」「直接的なネタバレNG」という方は、ご注意ください。
夏目漱石「それから」
夏目漱石の「それから」は、主人公・代助が友人である西岡の妻であり、かつて恋心を抱いた女性・三千代と再会し、交流する中で昔の気持ちを思い出していく恋愛小説です。
「それから」は前期3部作の2作目にあたる作品で、最終的には主人公が全てを失った結果、人格が崩壊気味に終わります。夏目漱石の「それから」の作品概要を、チェックしましょう。
項目 | 内容 |
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ページ数 | 361ページ(新潮文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
おすすめポイント | ・急 展 開!の息もつかせぬバッドエンド ・色や花の美しい描写も満喫できる ・これぞ高等遊民という生活ぶりが興味深い |
途中までは「どうするの?やっぱり諦めるの?告白するの?」とやきもきしながら読んでいたわけですが、
後半からのワクワクが止まらない急 展 開!
また、夏目漱石は花などの自然の描写が美しいのも魅力ですが、「それから」でも椿や百合など印象的な表現が多くあります。
さらに、主人公の代助は大学を卒業後に仕事をせず、親のお金で暮らすいわゆる「高等遊民」。夏目漱石作品でも圧倒的に仕事しない系の主人公なので、非日常的な生活ぶりも見どころです。
読みながら「他人の奥さんはどうでもいい!さっさと働きなさい!」と何度叫んだことか。

最終的に清々しいくらい全て失うので、ぜひ読んで震えてください。
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夏目漱石「門」
夏目漱石の「門」は親友を裏切って御米と結ばれた主人公・宗助が、かつての親友・安井が自分の近くに迫っていることを知り、救いを求める様子を描いた長編小説です。
「門」は「三四郎」「それから」に次ぐ前期3部作の3作目で、作中の問題が全く解決せずに物語が終わります。夏目漱石の「門」の作品概要は、以下のとおりです。
項目 | 内容 |
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ページ数 | 311ページ(新潮文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
おすすめポイント | ・ストーリー全体がそもそも暗い ・びっくりするほど問題は解決しない ・日常系バッドエンドとしては最高峰 |
宗助の家が崖の下にあるなど、そもそもストーリー全体が暗く、
割と最初から「これは幸せに…ならないな」の予感でいっぱいです。
また、安井に関する問題だけではなく、びっくりするほど全ての問題が解決しないまま、この生活がこれからも続くことが想定されるラストで、日常系バッドエンドとしては最高峰。
「そうだよね、日常的な問題なんて早々に解決するはずがないんだよね」という共感を身にしみて感じる作品です。
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全体の暗さが抜群なので、ぜひ読んでどんよりしてください。
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有島武郎「或る女」
有島武郎の「或る女」は、主人公・葉子がアメリカ在住の実業家・木村と結婚するために渡米する途中で、船の事務長・倉地と駆け落ちし、日本に戻って生活する様子が描かれています。
「或る女」は全ての人が主人公から離れていき、肉体的にも精神的にも苦しみ抜くラストを迎えます。「或る女」の作品概要は、以下のとおりです。
項目 | 内容 |
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ページ数 | 752ページ(新潮文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ☆ ☆ ☆ |
おすすめポイント | ・女の闇がピカイチ ・ラストの救いのなさは段違い ・落ちぶれ方が目を見張るレベル |
女の激情と運命がよく表現されており、
老いへの恐怖や独占欲などつい共感してしまう女の闇がピカイチ。
洋子と倉地は自分たちが思うように生きるために、周囲の人を利用したり、犯罪に手を染めたりしており、落ちぶれ方が目を見張るレベル。
次の展開が気になりすぎて睡眠そっちのけで読んだのですが、何しろ700ページ以上の超大作で読むのに時間がかかるため、初心者へのおすすめ度を2としました。

バッドエンド好きでもちょっと引くレベルの不幸ぶりです、ぜひ。
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芥川龍之介「歯車」
芥川龍之介「歯車」では、行く先々にレイン・コートを着た男が現れたり、身に覚えのないところで誰かが自分(ドッペルゲンガー)に会ったりするといった現象が発生し、主人公の心身の不調が描かれています。
「歯車」は作家自身の心象が描かれた晩年の作品で、この世を去りたいという悲痛な願いでラストが締めくくられます。「歯車」の作品概要を、チェックしましょう。
項目 | 内容 |
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ページ数 | 作品単体:41ページ(角川文庫) ※本全体では367ページ |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
おすすめポイント | ・ページ数が少なく読みやすい ・ホラー的な要素もある ・カラマーゾフの兄弟を読んでると一層楽しい |
作中の一説にも「カラマーゾフの兄弟」が出てくるように、追い込まれ方が次男・イワンを思わせるため、カラマーゾフの兄弟を読んでいる場合にはより一層楽しめるでしょう。
文庫本ベースで41ページと文量が少なく、時間のない場合にも手軽に読める作品です。

レイン・コートの男に、ぜひゾワゾワしてください。
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大江健三郎「芽むしり仔撃ち」
ノーベル文学賞も受賞した大江健三郎の初の長編小説である「芽むしり仔撃ち」は、戦時中における集団疎開を受け入れた村の様子を描いた作品です。
ラストは主人公が本当にすべての者から見離されて終了。「全てから見離される」というと家族と友人ぐらいだろうと思って読んでみると、大江健三郎はそんな生ぬるいことはしません。
大江健三郎の「芽むしり仔撃ち」の作品概要を、チェックしましょう。
項目 | 内容 |
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ページ数 | 240ページ(新潮文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
おすすめポイント | ・薄い!短い!明快! ・タイトルを裏切らない展開 ・バッドエンド好きでも引くレベル |
ありとあらゆる人から見放される過程は、バッドエンド好きの私も大いに引きました(そしてちょっと後を引いた)。
解説に「これはフィクションであり、作者の想像です」的なことが書かれていて、どれだけ私が安心したことか…!全10章で構成されており、ページ数も250ページ程度なので比較的読みやすい1冊です。

ぜひ、横に優しいエッセイを備えて読んでください。
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ドストエフスキー「悪霊」
ドストエフスキーの「悪霊」は、無神論革命思想を「悪霊」に見立て、取り憑かれた人々の破滅を描いとされており、実際に発生したネチャーエフ事件に基づいて構想された作品です。
「悪霊」はドストエフスキーの5大長編の1つで、登場人物がことごとく不幸になり、最後には主人公のニコライが自ら命を絶って物語が終了します。「悪霊」の作品概要は、以下のとおりです。
項目 | 内容 |
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ページ数 | 上巻:651ページ(新潮文庫) 下巻:758ページ(新潮文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ☆ ☆ ☆ |
おすすめポイント | ・登場人物は基本的に誰も幸せにならない ・助走期間が短くて比較的早めに面白くなる ・世の真理が詰まり過ぎている |
ラストに打ちのめされすぎて、読み終わりにボーッと天井を見つめていたことを思い出します。最初の200ページくらい耐えれば後の1,000ページ強はあっという間に感じられるほどに面白く、ドストエフスキー作品としては助走が比較的短め。
ドストエフスキー作品は世の真理を言い当て過ぎてちょっと読者が不安になる節があり、毎回のことながら「どうして本当のこと言っちゃうのー!」と、ワクワクとゾクゾクが止まりませんでした。

少々長いですが、ぜひ最後まで読んで、打ちのめされてください。
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ジョージ・オーウェル「1984年」
ジョージ・オーウェル「1984年」は、全体主義国家によって3つの国に分割統治された中で、主人公・スミスが政府に疑問を持ち、行動することで不幸と恐怖に巻き込まれるディストピア小説です。
「1984年」では主人公やヒロインは物理的・肉体的には救われるものの、精神的にはどん底に陥り、なかば人格が壊れる形で物語が終了します。「1984年」の作品概要を、チェックしましょう。
項目 | 内容 |
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ページ数 | 511ページ(ハヤカワepi文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ★ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
おすすめポイント | ・物理的に救われたが精神的にはどん底 ・癖になるトラウマ級のバッドエンド ・優しいエッセイを用意しておくのがおすすめ |
他の作品が読み終わりに「は〜〜〜!」と一瞬で気持ちが終わるのに対して、「1984年」はトラウマ級のバッドエンドで後を引き続ける感じがあります(今もなお)。
主人公が政府に不都合な過去を修正する仕事をしていたり、テレスクリーンというテクノロジーで国民の生活が監視されたりしているなど、身に沁みる恐怖があるのも後味が終わらない理由の1つです。

なかなかのどん底なので、優しいエッセイを待機させていくのがおすすめ。
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バルザック「ゴリオ爺さん」
バルザックの「ゴリオ爺さん」は下宿屋ヴォケール館を舞台に、法学生で社交界に進出しようとするラスティニャックや隠居しているゴリオ爺さんなど、ヴォケール館に住む人々の人間模様を描いた作品です。
「ゴリオ爺さん」は、ラストでは娘に金をむしられ続けるゴリオ爺さんに微塵も救いがないまま最期を迎えます。「ゴリオ爺さん」の作品概要は、以下のとおりです。
項目 | 内容 |
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ページ数 | 591ページ(古典新訳文庫) |
バッドエンド度 | ★ ★ ★ ★ ☆ |
初心者おすすめ度 | ★ ★ ★ ☆ ☆ |
おすすめポイント | ・ゴリオ爺さんの報われなさが止められない ・途中からテンポ良しであっという間 ・ヴォートランの誘惑が半端じゃない |
「地獄の沙汰も金次第」という言葉がありますが、ゴリオ爺さんは亡くなってもなお金次第過ぎて、辛い気持ちで胸がいっぱい。
序盤の登場人物紹介が終わればかなりテンポ良く進み、ページ数の割には読了までに時間がかからない印象です。なお、「ゴリオ爺さん」はモーム選出の世界10大小説に数えられる作品で、必見の価値あり、です。

タイトルからおじいさんの一生を描いた作品と勘違いして、あわや読まないところだった…危ない。
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純文学的バッドエンドの魅力とは

「純文学的バッドエンドの魅力」について紐解いていきましょう。ここでは、以下の観点から解説していきます。
- そもそもバッドエンドとは?
- 文豪の言葉より紐解いてみる
ポイントを押さえておけば、作品をさらに楽しめること間違いなしです。
そもそもバッドエンドとは?
コトバンクによると、バッドエンドの定義は以下の通りです。
小説・演劇・映画などで、物語が不幸な結末を迎えること。
コトバンク
そうバッドエンドとは「不幸な結末を迎える」ことですが、不幸には意外と多くのバリエーションがあります。一概に「登場人物が最期を遂げる」ラストが、バッドエンドだとは限りません。
その他にも、問題が解決しないまま日常が続いたり、周囲に見捨てられたり、色々とおかしくなってしまったり、と。そして、その多種多様なバッドエンドを味わえるのが純文学です。
文豪の言葉より紐解いてみる
さて、ハッピーエンド作品でワクワクできるのであれば非常に手っ取り早いのですが、どうしてバッドエンド作品に惹かれるのでしょうか。
ここでは、文豪の言葉を基づきながら解説していきます。

バッドエンド好きの私としても長年の不思議だったのですが、やはり文豪が解決してくれるという。
坂口安吾「文学のふるさと」より
坂口安吾「文学のふるさと」では、「救いのないこと自体が救いである」としています。
オオカミに食べられてしまう赤ずきんの話を例に挙げた上で、以下の件があります。
私達はいきなりそこで突き放されて、何か約束が違ったような感じで戸惑いしながら、然し、思わず目を打たれて、プツンとちょん切られた空しい余白に、非常に静かな、しかも透明な、ひとつの切ない「ふるさと」を見ないでしょうか。
坂口安吾「文学のふるさと」
その他にも2〜3つの例を挙げながら話が進み、終盤の締めくくりは、以下の通りです。
生存の孤独とか、我々のふるさとというものは、このようにむごたらしく、救いのないものでありましょうか。私は、いかにも、そのように、むごたらしく、救いのないものだと思います。(中略)最後に、むごたらしいこと、救いのないということ、それだけが、唯一の救いなのであります。(中略)私は文学のふるさと、或いは人間のふるさとを、ここに見ます。
坂口安吾「文学のふるさと」
人間の孤独には安易な救いがなく、むしろ救いのないことが救いであり、文学のふるさともここにあるとしています。
純文学に描かれる救いのないストーリーが、自身の根源的な悩みや孤独と重なるとき、共感を超えた肯定を感じるのではないでしょうか。
【関連記事】純文学の魅力・面白さとは?初心者におすすめの作品や美しい文章の例も分かりやすく紹介
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\\「文学のふるさと」が気になる方は、こちらをチェック!//
※中古のみの取扱いです。
芥川龍之介「夢」より
芥川龍之介「夢」では、「毒をもって毒を制す」といった表現があります。バッドエンドについて書かれた文章ではありませんが、「夢」には以下のようなくだりがあります。
それは憂鬱そのものと言っても差し支えない景色だった。しかし、銀座や浅草よりもわたしの心もちにぴったりしていた。「毒をもって毒を制す」ーーわたしはひとり土手の上にしゃがみ、一本の煙草をふかしながら、時々そんなことを考えたりした。
芥川龍之介「夢」
上記は景色について描写された文章ではあるものの、バッドエンドを読むときの気持ちに重なる部分が多くあり、共感が半端じゃありません。
自身の悩みや課題に対する解毒として、純文学のバッドエンドの用いているともいえます。

「毒を食らわば皿まで」という言葉もあるように、バッドエンドが気になる方はどんどん読んでいきましょう。
\\「夢」が気になる方は、こちらをチェック!//
純文学のバッドエンドに関するQ&A

最後に、純文学のバッドエンドに関するよくある質問を解説するので、疑問を解消しましょう。
純文学が苦手!どうすればいい?
純文学が苦手な場合は、不快感を抱きながら無理して読む必要はないといえます。
ただし、「なんとなく苦手な気がする」程度であれば、初心者向けの作品を読んで本当に苦手かどうかを確かめる方法があります。
また、購入する前にあらすじや作家の傾向を把握して、ご自身の興味に合うかチェックしましょう。
純文学はセリフが少ないって本当?
セリフが少ないかどうかは、純文学の作品によって異なります。
また、セリフが多いとしても1人の登場人物がひたすらしゃべって改行がないケースもあるので、あらかじめ確認することが重要です。
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まとめ

純文学のバッドエンド作品は、国内から海外までさまざまな作品があります。バッドエンドを味わえる純文学作品として今回紹介した作品を、おさらいしましょう。
- 夏目漱石「それから」
- 夏目漱石「門」
- 有島武郎「或る女」
- 芥川龍之介「歯車」
- 大江健三郎「芽むしり仔撃ち」
- ドストエフスキー「悪霊」
- ジョージ・オーウェル「1984年」
- バルザック「ゴリオ爺さん」
また、今回は坂口安吾の「文学のふるさと」・芥川龍之介の「夢」の一節から、純文学的なバッドエンドの魅力を解説しました。今回の記事を、読書ライフを楽しむ参考にしてください。
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